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事例:群馬大学医学部附属病院 様病院

  • FTスイッチ スタック リング 仮想化

院内システムを仮想ネットワークで統合
FTTDと10Gで高速化された“止まらない医療情報ネットワーク”を構築

1949年に開院し約70年の歴史を誇る群馬大学医学部附属病院は、電子カルテをはじめとする病院情報管理システムの更新に合わせ、ネットワークの再構築に着手。コアスイッチとデスクトップ端末を光ファイバで直接つなぐ「FTTD(Fiber To The Desktop:光直収ネットワーク)」の導入によって、複雑化していたネットワークの管理を一元化した。さらに、仮想ネットワークで複数の院内システムを統合し、シンプルで可用性・安全性の高いシステムを実現した。サーバやスイッチ間の接続は、すべて10Gbpsの光ファイバに増強し、スループットを高速化。システムのレスポンスを大幅に向上させることで、診療のスピードアップを支援している。

総合情報処理センター センター長 教授 佐藤 研一 氏

急増する患者・病院スタッフの数に病院情報管理システムの性能・機能が追いつかない

群馬大学医学部附属病院についてお聞かせください。

斎藤

北関東で唯一の国立病院で、年間約52万人、1日平均約2,000人の外来患者と、年間約1万5,000人の入院患者の診療を行っています。病院としては患者数が多いのが特徴で、ここ数年で外来患者数、入院患者数ともに2割以上増加しています。また、重粒子線照射設備を併設した数少ない総合病院ということから、がん治療に強く、院内がん登録件数は国立大学の附属病院の中で全国トップ(2013年実績)、1病床当たりの手術件数も全国2位となっています。

今回のネットワークの再構築について、その背景をお聞かせください。

斎藤

当院では、1998年にオーダリングシステムを、2009年に電子カルテシステムを導入し、早くから電子化に取り組んできた歴史があります。しかし最近では、患者と病院スタッフの数が急速なペースで増加しており、既存システムの性能や機能が追いつかなくなってきていました。そこで、電子カルテをはじめとする病院情報管理システムから、ネットワーク、周辺機器までを含めてすべてを刷新することにしたのです。

ネットワーク構成が複雑化、管理負荷やBCP対策が課題に

従来のネットワークにはどのような課題があったのでしょうか。

鳥飼

既存のネットワーク構成は、コア層、ディストリビューション層、アクセス層の3階層で構成された一般的なもので、アクセス層の先はハブを使って各診療室にネットワークを分岐していたため、複雑でネットワーク機器の管理が難しくなっていたのです。それゆえ、機器やネットワークに障害が発生した際も、故障箇所を探して切り分けることが困難でした。

また、ハブの存在はBCP対策を難しくしてしまいます。サーバと端末の通信が複数のネットワーク機器を経由している場合、ハブなどの冗長化されていない機器が落ちてしまうだけで、その系統すべてに影響が及んでしまうからです。例えば、2011年の東日本大震災のとき、当院は計画停電により1日6時間の停電を経験しましたが、復電の際や自家発電との切り替え時に発生するサージ電圧で機器が壊れてしまい、その系統のネットワークが機能不全に陥ってしまうケースもありました。当時は病院全体に分散配置された機器ごとに無停電電源を設置して一時的にしのいだものの、こうした作業を停電のたびに実施するわけにはいきません。

さらに、電子カルテや医療用画像システムを利用する際のスループットの低下も課題でした。これまでは病棟のフロア単位でスイッチを置いて分岐していたのですが、ネットワークがボトルネックとなるレスポンス低下などがよくありました。原因としては、サーバによるバックアップの取得、サーバへのリクエストの集中、データの大きなCT/MRI画像のダウンロードなどが考えられます。電子カルテなどのレスポンスが数秒遅くなるだけで医師やスタッフ、患者にストレスがかかり、診療もスムーズに進まなくなるおそれがあります。

FTTD(光直収ネットワーク)でネットワークの一元管理を実現、FTスイッチやリング、スタックなどにより冗長性も確保

こうした課題を解決するため、どんな対策をとったのでしょうか。

鳥飼

まずはスループットを高速化するため、病棟間およびスイッチ間の接続はすべて10Gbpsの光ファイバに増強することにしました。さらに、外来棟にあるサーバ室と各診療室の間を光ファイバで直接つなぐFTTD(Fiber To The Desktop:光直収ネットワーク)(※1)を採用し、院内に約1,300本の光ファイバを敷設しました。これにより、ネットワークをシンプル化し一元管理を実現。ハブを経由する必要がなくなったため、どこか1カ所で障害が発生しても他の診療室に影響を与えることがなくなりました。

ほかにはどんなポイントがありますか。

髙木

外来棟のサーバ室にあるコアスイッチにはシャーシ型のAX8632Sを採用し、1台の装置に2台分の機能を実装したフォールト・トレラント・アーキテクチャ(※2)によって装置内二重化を図りました。このサーバ室には、各診療室をFTTDで収容するディストリビューションスイッチとして複数のAX3800Sも設置しています。コアスイッチとディストリビューションスイッチは、リングプロトコル(※3)を用いた10GのL2リングネットワークによって構成されており、障害発生時にも“止まらないネットワーク”を実現しています。

一方、外来棟と別の建屋となる重粒子センターと中央診療棟の2カ所のコアスイッチには、コンパクトなAX4600Sを採用し、2台のスイッチを1つに束ねるスタック(VRS)機能(※4)を用いてコアの装置間を二重化しています。また、エッジスイッチとコアとの接続は、10Gを2本束ねるリンクアグリゲーション(※5)によってシンプルに冗長化しました。

外来棟のコアスイッチ(AX8632S)と、重粒子センターと中央診療棟のコアスイッチ(AX4600S)の間は特にトラフィックが集中するため、10Gを4本束ねて広帯域化するとともに、リンクアグリゲーションで冗長化しています。

どのあたりでアラクサラのスイッチを評価されたのでしょうか。

髙木

医療情報ネットワークのあるべき姿を実現するためには、スイッチも総合力が重要です。検討時、各社の製品を調査・採点したのですが、100Gクラスのネットワークに対応可能、加えてスイッチ自体の能力が高く、サイズもラックに収まるコンパクトなもの。さらに医療系の実績が豊富等の理由もあって、アラクサラの製品が最も高い評価となりました。

メインのコアスイッチにAX8632Sを採用した理由をお聞かせください。

髙木

高い性能とコンパクトなサイズを兼ね備えているからです。AX8632Sは1台の装置で2台分の機能を持ち、最短50m秒で切替えができます。また、FTTDを採用すると大量の光ケーブルを収容することになりますが、AX8632Sは光ポートの数が多い上にサイズもコンパクトなので、収容に必要なスペースも少なくて済むことがポイントになりました。

各診療室をFTTDで収容するディストリビューションスイッチにAX3800Sを採用した理由はなんでしょう。

鳥飼

現在、各診療室は1Gで収容されていますが、これを将来的に10Gへ拡張し、診療室の端末を使った分散コンピューティングを実現したいと考えています。そのため、診療室にはデータの読み書きが早いSSDを搭載した端末を導入していますが、せっかく端末のスペックを高めても、データをやり取りするネットワークが遅ければそこがボトルネックとなってしまいます。そこで院内のネットワークをすべて10Gに対応させるため、1Gから10Gへのマイグレーションが容易なAX3800Sにこだわりました。

重粒子センターと中央診療棟のコアスイッチにはAX4600Sを採用しています。その理由をお聞かせいただけますか。

髙木

収容率が高く、堅牢性が高いところが採用した理由です。こちらにも10Gの光ファイバを収容していますので、高い収容率は必須。また、重粒子センターと中央診療棟にも外来棟と同様に基幹となるサーバシステムを置いているため、耐障害性も求められます。AX4600Sはコンパクトなスイッチでありながら、シャーシ型並みの堅牢さを備え、スタックで簡単に冗長構成が取れる点を評価しました。

ネットワーク 構成図
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院内システムを集約し仮想ネットワークで論理的に分割、システムのレスポンス向上と管理の負荷軽減を実現

ネットワークを仮想化し、院内システムを統合していますね。

浜元

これまで病院情報管理システム(HIS)と医療用画像システム(PACS)は、ネットワークが別々に存在しており、管理の複雑化を招いていました。そこで今回の再構築では、仮想化によってHISとPACSのネットワークを物理的に集約し、ルーティング(L3)をコアスイッチに集中させています。これにより、敷設コストが高い建屋間の回線の集約が可能になり、最適なコストでネットワーク全体の冗長化が実現しました。また、コアスイッチとディストリビューションスイッチの2つは機器の内部を仮想ネットワーク(VRF)機能(※6)、エッジスイッチの内部はVLANで分離しセキュリティを担保しています。

新しいネットワークへの切り替えのスケジュールを教えてください。

髙木

2015年の7月に、2日間で切り替えました。新システム自体の稼働は2カ月後からだったのですが、問題点を早めに発見して対応を行うため前倒しで実施しました。実際、ループなどいくつかの障害が発見されましたが、ネットワークをシンプル化した効果もあり、スピーディに対処することができました。

導入効果は現れましたか。

鳥飼

ネットワークをすべて10G化してFTTDを導入し、さらにサーバやストレージ、端末のディスクに高速のSSDを採用したことで、システム全体のレスポンスが大幅に向上しました。たとえば、以前は看護日誌を出力する作業に約40分かかっていましたが、今では約40秒と、約60倍の高速化が実現しています。このようにシステム全体のレスポンスが早くなったことで、診療や事務作業がスピーディになり、患者を待たせる時間が短縮されました。

青木

“止まらないネットワーク”の実現と、管理負荷の軽減も大きな効果です。以前はシステム環境の変化に合わせ、ほぼ毎月のようにケーブルを引いたり、ハブを設置したりで、その作業へ多くの時間を取られていました。しかし今では、FTTDのポートにケーブルを差し込むだけで、簡単に工事が終わります。また、以前はループが発生すると、ユーザにいったん作業を止めてもらい、その間に我々が原因を調べて修復するといったケースがよくありましたが、それもほぼなくなり、仮にループが発生しても即座に対処することができるようになりました。さすがに停電のテストまでは行っていませんが、FTTDによるセンター(AX8632S+AX3800S)での一元管理によって、以前のように病院全体に無停電電源を設置して回る必要性は無くなりました。

患者向けサービスの拡充および10Gの高速ネットワークを用いた分散コンピューティングを検討

将来の展望についてお聞かせください。

髙木

ネットワークを使った患者向けサービスの拡充を検討しています。具体的には、患者に院内で快適かつ効率よく過ごしていただくための情報提供ですね。例えば、検査や治療が終わった後すぐに会計できたり、スマートフォンを持っている患者やその家族に無線LAN経由で情報を提供したりといったことも、現在のネットワークを利用すれば手軽に実現できますので。

鳥飼

いずれは10Gのネットワークをフルに活用できるようになりたいですね。ハイビジョンの高精細な画像を介して、遠隔地の病院の手術支援や医師の教育を行うことも考えられます。また、先にも述べましたが、10Gの高速ネットワークを使って分散コンピューティングを実現すれば、蓄積された電子カルテのデータなどを高速に検索、抽出、分析して類似の症例を見つけ出し、最適な治療計画を立てることも可能になるでしょう。最近ではビッグデータの分野でHadoop(※7)が注目されていますが、重粒子線の治療を検討する際、大量のデータを用いてシミュレーションを行うケースでも役立つのではないかと思います。

最後にアラクサラに対する評価をお聞かせください。

髙木

アラクサラからは常に適切な情報が提供され、技術面でも丁寧な説明をしていただきました。特に機器を評価する際には、営業担当と技術担当の方に何度も足を運んでいただき、綿密な打ち合わせを重ねた上でテストを実施することができました。おかげさまで満足のいくネットワークが構築でき、とても感謝しています。今後も、現在の高い品質と信頼性を維持しながら、強力なサポートをお願いできればと思います。

ありがとうございました。

*1
FTTD(Fiber To The Desktop:光直収ネットワーク):光ファイバを診療室、研究室、事務室などに直接引き込む高速データ通信サービス。
*2
フォールト・トレラント・アーキテクチャ:障害発生時に最小限の切替時間で運転を継続するための仕組み。
*3
リングプロトコル:スイッチをリング状に接続することで、柔軟かつスケーラブルなシンプルネットワークを構築するアラクサラ独自のプロトコル。
*4
スタック(VRS)機能:複数のスイッチを仮想的に1台としてまとめて管理する機能。
*5
リンクアグリゲーション:複数の回線を仮想的に1本の回線とすることで通信速度や耐障害性を高める技術。
*6
仮想ネットワーク(VRF)機能:1台のスイッチの中に複数のルーティングテーブルを持たせることによって、仮想的に複数のスイッチとして動作させる機能。
*7
Hadoop:大規模データを複数のサーバに分散して処理するためのオープンソースのプラットフォーム。
社名/商品名は、各社の商標または登録商標です。

About 群馬大学医学部附属病院

群馬大学医学部附属病院

731床の病棟と1,700名以上のスタッフを擁し、1日2,000名の外来患者と年間1万5,000人の入院患者の診療を行う北関東有数の拠点病院。大学病院としては唯一の重粒子線がん治療を始め、数多くの先進医療を推進している。また、東北大震災の経験と教訓を踏まえて災害に強い病院の構築を目指しており、2012年には県から災害拠点病院に指定されている。

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