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社長インタビュー ~アラクサラ5年の軌跡とその未来~

ギャランティの旗を掲げブロードバンド時代のインフラを築いた年月

2009年10月1日をもって、NECと日立製作所のネットワーク事業部が合併してできたアラクサラネットワークス(以下、アラクサラ)が創業5周年を迎えた。「ギャランティドネットワーク」の旗を掲げ、ポストブロードバンド時代を駆け抜けてきたアラクサラの軌跡と次の展開を代表取締役社長の和田宏行氏に聞く。

業界の荒波を横目に確実に歩んだ結果のシェア2位

代表取締役社長 和田 宏行

2004年10月1日に設立されたアラクサラネットワークスは、外資系ベンダーの強いネットワーク機器の市場を奪還すべく生まれた、日本では過去あまり例のない戦略会社といえる。当時国内では、不況の最中でありながら、企業や通信事業者のブロードバンド化が着実に進行しており、最大手のシスコシステムズを始め、多くのベンダーが市場に強力な製品を次々と投入していた。こうした中、ネットワーク機器の開発リソースを統合し、国産ベンダーの持つ強みを集結させたいというNECと日立製作所(以下、日立)の意向を基にアラクサラが産声を上げた。ラテン語で翼を表す2つの「ALA」は顧客とベンダーなどを表し、両者がルータとスイッチを象徴する「X」で強く結びついたイメージがアラクサラの社名の由来だ。

そして設立から早くも5年が経過した。和田宏行社長に現在までの率直な感想を聞くと、「そもそも日立とNECが合意して会社を作ること自体が思い切ったチャレンジでしたし、振り返ると大変なことばかりでしたね。スタート時は、今後インターネットは社会インフラになると思っていたので、その技術を身につけ、国際ベンダーとして製品化をすることが主目的だと考えていました。そして、その後は社会がその通りになりましたが、国内で大規模なスイッチやルータを開発できるところは、もはや今やうち1社になってしまったんです。ただ、これは予想していた通りで、私たちのミッションはますます大きくなってきたと思います」と語ってくれた。

確かに、この5年間でネットワーク機器の業界は大きく変貌を遂げた。富士通はハイエンドルータ事業においてシスコと戦略提携を行ない、ファウンドリーネットワークスはブロケードコミュニケーションズシステムズが買収。一方で、ファーウェイ・スリーコム(現H3C)、ヒューレット・パッカードなど新しいプレイヤーも増えている。こうした業界の荒波を横目に、アラクサラは着実に己の足下を固めてきた。その結果として「売り上げ規模としては創業当初数十億だったのが300億円規模になりました。また、国内LANスイッチの市場でもシェア2位(IDC Japan調べ)を獲得できました」(和田氏)という現在の規模とポジションにつながったわけだ。

実際のユーザーとしては、国内の代表的な通信事業者はもちろんのこと、東京証券取引所の次世代ネットワーク「arrownet」や、北海道洞爺湖サミットなど絶対に止まってはならないという場面で採用されている。和田社長は「ユーザーが我々に期待する点は、やはり会社や製品の信頼感、そして後発で絶対的に必要な他社との差別化です。この2つをきちんと満たしてきたことが、この5年間の成果と思っています」と述べている。

アラクサラ躍進の背景に「信頼性」を掲げた地道な活動

アラクサラが派手なPRやマーケティング活動で、今のポジションをつかんだというイメージは希薄だ。とはいえ、コスト削減が叫ばれる昨今でありながら、価格勝負で市場をつかんだわけでもない。アラクサラ躍進の背後には、いったいなにがあったのだろうか?

まずは信頼性の高い製品の充実ぶりが挙げられる。和田社長は「設立時から大型ルータ・スイッチをきちんと作って、社会インフラを支える通信事業者様に提供できたことが大きかったと思います。また、日立やNECではなく、アラクサラ独自の製品として、エンタープライズ向けの新製品を投入できたことは、特に感慨深いことでした」とこれまで市場に投入してきた製品についての思い入れを語る。とはいえ、当初はシャーシ型のハイエンドルータ・スイッチしかなく、エンタープライズ向けのボックス型製品が出てくるまでは、競合のラインナップと比較され、正直苦しかった。しかし、現在ではエンタープライズ向け製品の割合も着実に増えてきたという。

また、創業当初からユーザーに対して訴求した「ギャランティドネットワーク」というメッセージも、結果的に信頼性や品質が高いというアラクサラのブランドイメージを醸成した。和田氏はこうしたマーケティングや営業活動の施策について「もちろん、新会社ですから、マスコミを使って派手に宣伝をやったり、価格勝負や囲い込みという選択肢もありました。でも私たちは、信頼性やものづくりへのこだわりを地道に訴え続けました。今考えると、こうした部分を外したら、やっぱり生き残れなかったなと思いますね。一歩一歩我々の進んでいるところをお客さんにきちんと見せていく、ある意味地道なマーケティングや営業が、結果としてよかったと思っていますよ」と振り返る。「たとえば、シャーシ型スイッチのガイド1つとっても、スムースにモジュールがはめられるか、など見えないところまで配慮するのが、ものづくりに携わるもののこだわり」といった意見も出た。こうした技術畑出身ならではの指向がユーザーを引きつけたに違いない。

当然ながら経営者として低価格化やコスト削減の圧力には、常にさらされている。しかし、「品質の高いモノを作るにはやっぱりお金がかかりますし、当然製品の価格に転嫁されます。しかし、壊れないモノを作れば、結果としてユーザーも、販売している会社も、我々も大きなメリットを享受できます。たとえば、アラクサラが直接運営する全国ネットの保守部品配送システムがありますが、これは故障が少ないからこそできるサービスです。保守部品を販売代理店が持たなくてもよいということで、高い評判を得ています」とのこと。

とはいえ、もちろん現状で完璧を実現しているというわけではなく、実際製品の障害で迷惑を掛けることもあるという。これは和田氏も経営者として認識しており、「何か問題が起こったときは起きたときで、それに対してきちんと対応することがお客様の期待でもあります。トラブルや障害の際も、その軸は外さないで今後も推進したいと考えています」と顧客の声に真摯に耳を傾けながら、品質向上に努めていくという。

製品だけではなく、サービス、サポートにまで品質を求めていくのが、「アラクサラウェイ」なのだ。

省エネやFT、認証や仮想化など他社との差別化を追求

もちろん、後発のベンダーであり、他社に比べて光るところがなければ絶対ダメということで、製品の差別化にも力を注いでいる。その中でも同社が設立当初から力を入れているのが省エネ技術である。

和田社長は省エネに関して「これに関しては、狙っていたところが当たったなという感じです。日本では今から5年前には省エネを実現するハイブリッドのエコカーがありましたよね。ITの業界でもこうした話はいずれ出てくるけど、海外ベンダーはやってこないなと思っていました。2007年くらいにグリーンITが盛り上がってきた時には、すでに製品開発も進んでいました。現在では他社に比べて圧倒的に凌駕している分野だと自負しています」と語った。こうした差別化ポイントは、消費電力をダイナミックに削減するグリーンIT技術に加え、ネットワークの仮想化を実現するネットワークパーティションノンストップでの運用を可能にするフォールトトレラント(FT)、そして不正ユーザーや情報漏えいを減らす認証・検疫の4つに拡大し、それぞれをソリューションとして展開している。

まさに順風満帆に見えるアラクサラだが、和田社長にはNECと日立製作所という2つの組織をまとめる苦労もあった。「日立とNECでは文化も違いますし、当初から両者の統合は大きな課題でした。共通の目的を持ったエンジニアたちの融合は予想より早めに達成できたと思いますが、営業や組織運営に関しては、独立系ビジネスパートナーの販路確立をはじめとして、どれがアラクサラとして最適なのか相当悩みました。時間をかけたし、まだ道半ばですが、営業・組織運営のある程度一体感を醸成することができたと思います」と語っている。

日本で培ってきた技術を基に次の5年は海外を目指す

国内ではシェア2位を確保し、売上高も300億円強を実現。他社と差別化された製品も拡充され、組織もまとまってきた状態で迎えた創業5年目。次の展開は、国内市場のポジションを堅持しつつ、海外市場を狙うという。

和田氏は「我々は今まで国内を中心にやってきましたが、次は海外に出て行きたい。そして、5年後には希望として海外でベスト5に入りたいと考えています。荒唐無稽な計画のように見えますが、5位のベンダーの売上高は今の我々の売上高と比べて、それほど大きな差はないんです」と海外市場展開への展望をこう語る。

とはいえ、海外市場はビジネスの流儀も販売体制も顧客の志向も違う。いくら日立、NECの販売網をもってしても、一気にシェアを拡大するのは難しいだろう。だが、和田社長は海外進出の手がかりをすでにつかんでいるようだ。それを端的に表したのが、日立製作所が導入を手がけた韓国最大手キャリアの事例だ。「韓国には大型ルータやスイッチを開発しているベンダーがないため、おのずと海外からの調達になるんです。当初は導入された台数も少なかったのですが、稼働品質を評価され、導入数がどんどん増えたんです。『とにかく落ちないので、夜寝られるようになりました』とユーザーの担当者からお礼をいわれたくらいです」とのこと。海外でもアラクサラの信頼性へのこだわりが通用するというわけである。もちろん、前述した省エネ性能をはじめとする4つのソリューション、そしてIPv6への対応なども強力な武器となろう。

果たして2つの翼は海を越えて羽ばたけるのか?その活躍に期待したい。