解説書 Vol.2

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1.9.1 QoSネットワーク構成例

トラフィック量がネットワークの転送容量を上回ると,ネットワーク内でパケットが滞留する場所(輻輳ポイント)が生じます。この項では,この輻輳ポイントにQoS制御を適用し,通信品質を改善するQoS制御の適用例を示します。

<この項の構成>
(1) 企業ネットワークへの適用例
(2) プロバイダ網への適用例(DSCP値を使用したQoS制御)
(3) プロバイダ網への適用例(最低帯域保証(kbit/s指定)を使用したQoS制御)

(1) 企業ネットワークへの適用例

自ネットワークを構成する装置ごとに装置単体レベルでQoS制御(簡易的QoS制御)を行う企業ネットワークに本装置のQoS制御を適用した場合の例について説明します。

(a) 企業ネットワークへQoS制御を適用する場合のメリット

企業ネットワークに本装置のQoS制御を適用した場合には,次に示すような要求を実現できます。

(b) 適用例

輻輳ポイントごとに通信品質の改善方法を示します。企業ネットワークへの適用例を次の図に示します。企業ネットワークの構成は,本社間に高速専用線を使用し,本社−支店間にフレームリレー網を使用します。

図1-20 企業ネットワークへの適用例

[図データ]

構成の説明
支店ルータは,直接営業店の回線を収容するルータで,IPパケットのフローを検出し,出力優先度ごとに最低帯域保証を行います。
本社ルータは,支店ルータからのトラフィックを集約して,ネットワークの基幹部分を構成するルータです。支店ルータ配下の営業店宛てのIPパケットのフローを検出して,出力優先度ごとに最低帯域保証を行います。また,本社−本社間ではトラフィック種別ごとに完全優先を行います。
本装置は,本社ルータ,支店ルータのどちらにも適用できます。

輻輳ポイント
  • 複数の営業店から本社向けのパケットが集中する支店ルータの本社ルータ向けの出力インタフェース(A-1)
  • 本社から複数の営業店へのパケットが集中する本社ルータの支店ルータ向けの出力インタフェース(A-2)
  • フレームリレー網内(B)
  • 高速専用線が集中する本社ルータの本社1−本社2間の高速専用線網への出力インタフェース(C)

通信品質の改善方法
  1. 輻輳ポイント(A-1,A-2)で最低帯域保証
    (A-1)(A-2)の輻輳ポイントで営業店ごとにトランザクションデータに対し最低帯域保証制御を行うことによって,輻輳ポイントで輻輳が発生した場合にトランザクションデータの低遅延,低廃棄を実現できます。
  2. 輻輳ポイント(B)でレイヤ2連携機能
    フレームリレー網が輻輳した場合に,トランザクションデータ以外のデータの廃棄を網の輻輳制御機能(DEビット)を使用することによって,通信品質を改善できます。
  3. 輻輳ポイント(C)で完全優先
    輻輳ポイント(C)では,トラフィック種別ごとに要求される通信品質にで完全優先を行うことによって,通信品質を改善できます。トラフィック種別に対する要求通信品質は,「表1-1 トラフィック種別と要求される通信品質」を参照してください。

(2) プロバイダ網への適用例(DSCP値を使用したQoS制御)

本装置のDSCP値を使用したQoS制御をプロバイダ網に適用した場合の例について説明します。

(a) 実現できるサービス

DSCP値を使用したQoS制御をプロバイダ網に適用すると,次のようなサービスを実現できます。

(b) 適用例

輻輳ポイントごとに通信品質の改善方法を示します。プロバイダ網への適用例を次の図に示します。プロバイダ網の構成はバックボーンルータ間,バックボーンルータとそのほかのプロバイダ網間に高速専用線を使用し,バックボーンルータ−エッジルータ間にフレームリレー網を使用します。

図1-21 プロバイダ網への適用例(DSCP値を使用したQoS制御)

[図データ]

構成の説明
エッジルータは,直接ユーザの回線を収容するルータです。IPパケットのフローを検出して,フローごとに帯域監視を行い,優先度を割り当てます。割り当てられた優先度に対応するDSCP値でIPパケットのDSCPフィールドを書き換え,IPパケットごとに優先度情報を反映します。
バックボーンルータは,エッジルータからのトラフィックを集約して,ネットワークの基幹部分を構成するルータです。エッジルータがIPパケットごとに設定したDSCP値の優先度情報に応じてパケットを転送します。
このようにすることでプロバイダはユーザに対して通信品質を提供できます。本装置は,バックボーンルータ,エッジルータのどちらにも適用できます。

輻輳ポイント
  • 複数のユーザからバックボーン向けのパケットが集中するエッジルータのバックボーンルータ向けの出力インタフェース(A-1)
  • バックボーンルータから複数のユーザへのパケットが集中するバックボーンルータのエッジルータ向けの出力インタフェース(A-2)
  • フレームリレー網内(B)
  • 高速専用線が集中するバックボーンルータのバックボーンルータ1−バックボーンルータ2間の高速専用線への出力インタフェース(C)
  • バックボーンルータから他プロバイダ網への出力インタフェース(D)

通信品質の改善方法
  1. 輻輳ポイント(A-1)で完全優先,帯域監視
    エッジルータはユーザからのパケットに対し,ユーザが契約した優先度に対応するDSCP値をパケットのIPヘッダのTOSフィールドに書き込み,そのDSCP値で完全優先を行います。高い優先度で契約したユーザのトラフィックが低い優先度のトラフィックよりも優先して中継され,優先度に応じた通信品質を実現できます。
    さらにエッジルータは各ユーザから,またはユーザへのパケットに対して,ユーザが契約した帯域を監視する帯域監視を行います。契約帯域を超えた違反パケットを廃棄することで,そのほかのユーザの過剰トラフィックによる帯域使用を防止し,各ユーザの通信品質を保持します。
  2. 輻輳ポイント(B)でレイヤ2連携機能
    フレームリレー網が輻輳した場合に,プロバイダのポリシーに従い,網の輻輳制御機能(DEビット)を使用してトランザクションデータ以外のデータの廃棄を行うことによって,通信品質を改善できます。
  3. 輻輳ポイント(A-2,C)で完全優先
    パケットのIPヘッダ内のDSCP値に基づいて完全優先を行うことによって,高い優先度で契約したユーザのトラフィックが低い優先度のトラフィックよりも優先して中継され,優先度に応じた通信品質を実現できます。
  4. 輻輳ポイント(D)で帯域監視
    プロバイダ間接続の場合は特に相互の契約帯域を守ることと相手からの契約帯域以上のトラフィックが来ていないか監視(帯域監視)することが重要です。相手からのトラフィックを監視し,契約帯域を超えた違反パケットを廃棄することで,自網内への予期しないトラフィックの流入を防止し,自網内の通信品質を保持します。

(3) プロバイダ網への適用例(最低帯域保証(kbit/s指定)を使用したQoS制御)

本装置の1000キューモード(最低帯域保証(kbit/s指定))を使用したQoS制御をプロバイダ網に適用した場合の例について説明します。

(a) 実現できるサービス

最低帯域保証(kbit/s指定)を使用したQoS制御をプロバイダ網に適用すると,次のようなサービスを実現できます。

(b) 適用例

輻輳ポイントとなる低速専用線での通信品質の改善方法を示します。プロバイダ網への適用例を次の図に示します。

図1-22 プロバイダ網への適用例(最低帯域保証(kbit/s指定)を使用したQoS制御)

[図データ]

構成の説明
エッジルータは,直接ユーザの回線を収容するルータで,ユーザからのIPパケットのフローを検出し,フローごとに最低帯域保証を行います。
バックボーンルータは,エッジルータからのトラフィックを集約し,ネットワークの基幹部分を構成するルータです。また,基幹部分からユーザへ向けたIPパケットのフローを検出し,フローごとに最低帯域保証を行います。
このようにすることでプロバイダはユーザに対して通信品質を提供できます。本装置は,バックボーンルータ,エッジルータのどちらにも適用できます。

輻輳ポイント
  • 複数のユーザからバックボーン向けのパケットが集中するエッジルータのバックボーンルータ向けの出力インタフェース(A-1)
  • バックボーンルータから複数のユーザへのパケットが集中するバックボーンルータのエッジルータ向けの出力インタフェース(A-2)

通信品質の改善方法
  1. 輻輳ポイント(A-1,A-2)で最低帯域保証
    (A-1)(A-2)の輻輳ポイントで,ユーザごとに個別の送信待ちキューを使用して最低帯域保証制御を行います。こうすれば,輻輳ポイントで輻輳が発生した場合に,ユーザの使用帯域を保証するサービスが実現できます。また,輻輳が発生していないときには,各ユーザが専用線の空き帯域を有効に利用できます。

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