解説書 Vol.1
IS-ISは,ルータ間の接続の状態から構成されるトポロジに基づき最短経路を計算するリンクステートプロトコルです。本装置では,IS-ISプロトコル機能の中で,IPv4ルーティング機能とIPv6ルーティング機能をサポートします。
IS-ISは通常,一つのAS内部でのルーティングに使用します。IS-ISが動作しているルータでは,そのルータのIS-ISルーティングについての経路情報を,ほかのIS-ISルータと共有します。各ルータは,ネットワーク上のIS-ISルータより収集した経路情報に基づき,最短経路を計算します。
- <この節の構成>
- (1) RIPとの比較
- (2) OSPFとの比較
- (3) サポート仕様
- (4) IS-IS使用上の注意
(1) RIPとの比較
IS-ISは,同じくAS内ルーティングプロトコルであるRIPと比較して,以下の特徴があります。
- 経路情報のトラフィックの削減
IS-ISでは,ルータ間の接続や,ルータの広告経路の状態が変化したときだけ,変更情報をほかのルータへ通知します。このため,RIPのような定期的にすべての経路情報を通知するルーティングプロトコルと比較して,ルーティングプロトコルが占有するトラフィックが少なくなります。なお,IS-ISでは,デフォルトでは15分周期で自ルータの接続状態だけをほかのルータに通知します。
- ルーティングループの抑止
IS-ISでは,すべてのルータで保持している経路情報が同じです。このため,各ルータの経路情報の不一致によるルーティングループを防ぐことができます。
- 大規模なネットワーク運用
IS-ISでは,経路選択に使用するメトリック値の上限は,1023または4261412864です (この上限値は選択可能です)。メトリック値の上限が16であるRIPと比較して,よりホップ数の大きなネットワークにも適用できます。また,インタフェースやIS-ISへ広告する経路のメトリックを加減することによって,RIPよりも柔軟にルーティングすることができます。
- 可変長サブネット
IS-ISでは,経路情報にネットワークマスクを含んでいるので,CIDR経路を自由に扱えます。一方,RIP-1では,ナチュラルマスク (宛先IPアドレスのクラスに従ったネットワークマスク) 以外の経路情報の広告に制限があります。
(2) OSPFとの比較
IS-ISは,同じくリンクステートルーティングプロトコルであるOSPF・OSPFv3と比較して,以下の特徴があります。
- プロトコル体系の違い
IS-ISは,元来OSIプロトコル体系のルーティングプロトコルです。このため,IS-ISの情報交換には,OSIパケットを使用します。
OSPF・OSPFv3は,それぞれIPv4・IPv6プロトコル体系のルーティングプロトコルなので,それぞれIPv4パケット・IPv6パケットを使用します。
- IPv4ルーティング・IPv6ルーティングを同時に扱う
IS-ISでは,一つのルーティングプロトコルでIPv4とIPv6を同時に扱います。一方,OSPFはIPv4をルーティングするプロトコル,OSPFv3はIPv6をルーティングするプロトコルです。
同時に扱うことの長所は,ルーティングプロトコルが一つで済むため,ネットワークの構築・維持が簡潔になることです。
同時に扱うことの短所は,IPv4とIPv6でルーティングプロトコルが同一であるため,IPv4とIPv6の間で異なる最短経路の判断方法を適用できないことです。また,IS-ISネットワーク上の全ルータ・全回線がIPv4・IPv6をともにサポートしない限り,IS-ISネットワークでIPv4・IPv6を同時にルーティングすることはできません。
- エリア分割方式
IS-ISの方が,OSPFよりも自由にエリア分割をすることができます。これは,エリア分割方式が異なるためです。
IS-ISでは,エリア分割時に,分割した各エリアのネットワークをレベル1,エリア間接続に使用する回線とルータからなるネットワークをレベル2といいます。各エリアのネットワークは,レベル2ネットワークを通して接続されます。レベル2ネットワークを構成するルータは,あらかじめネットワーク構築時に指定しておきます。レベル2ルータ間の回線は,自動的にレベル2回線になります。レベル2回線が,同時にあるエリアのレベル1回線であってもかまいません。
OSPFでは,エリア分割時に,中心となるエリアをあらかじめ作成しておきます。このエリアをバックボーンといいます。バックボーン以外のエリアは,バックボーンエリアと,エリア境界ルータを通じて接続している必要があります。どの回線も,所属できるエリアは一つだけです。バックボーン上の回線が,同時にほかのエリアの回線になることはありません。
一般には,IS-ISのエリア分割の方が柔軟である一方,レベル2ネットワークが大きくなり,レベル分割の利点が小さくなる傾向があります。
(3) サポート仕様
IS-ISルーティング機能のサポート仕様を次の表に示します。
表10-1 IS-ISサポート機能
IS-IS機能 仕様 IPv4ルーティング(RFC 1195準拠) ○ IPv6ルーティング
(“draft-ietf-isis-ipv6-05.txt” Internet Draft準拠)○ OSIルーティング × IS-ISプロトコルパケット交換サポートインタフェース 「表10-2 IS-ISサポート回線種別とその通信方式」を参照 イコールコストマルチパス ○ エリア分割 ○ ドメインワイド拡張
(RFC 2966準拠)○ IPv4ルーティング メトリック拡張
(“draft-ietf-isis-traffic-04.txt” Internet Draft 準拠)○ トラフィック・エンジニアリング対応 × ホスト名交換拡張
(RFC2763準拠)○ 暗号化認証
(“draft-ietf-isis-hmac-03.txt” Internet Draft 準拠)○ 再配布経路およびレベル間広告経路の集約広告 ○ グレースフル・リスタート(RFC3847準拠) ○※ (凡例) ○:取り扱う ×:取り扱わない
注※ オプションライセンス【OP-MPLS】を有効にしているソフトウェアでは,グレースフル・リスタートをサポートしません。
回線種別および通信方式に基づき,IS-ISプロトコルパケット交換のサポート・未サポートを次の表に示します。仕様に記述のIS-ISインタフェース種別については,「10.2.1 経路情報広告の基礎 (4) IS-ISインタフェース」を参照ください。
表10-2 IS-ISサポート回線種別とその通信方式
回線種別 インタフェース 通信方式 仕様 LAN
- イーサネット
(RMイーサネットを除く)
Ethernet V2 ○
ブロードキャスト型インタフェース802.3 VLAN ○
ブロードキャスト型インタフェース
- RMイーサネット
Ethernet V2 × WAN POS PPP
(ポイント−ポイント型)○
ポイント−ポイント型インタフェース(凡例) ○:取り扱う ×:取り扱わない
(4) IS-IS使用上の注意
- IS-ISを使用する場合,以下の注意事項を参照してください。
「10.2.1 経路情報広告の基礎 (2) サポートプロトコル体系 【注意事項】」
「10.2.1 経路情報広告の基礎 (4) IS-ISインタフェース 【注意事項】」
- IS-ISでエリア分割を使用する場合,以下の注意事項を参照してください。
「10.2.2 エリア分割とレベル (1) レベルとエリア 【注意事項】」
- IS-ISで認証を使用する場合,以下の注意事項を参照してください。
「10.2.5 認証(IS-IS) (1) 隣接ルータの認証 【注意事項】」
「10.2.5 認証(IS-IS) (2) LSPの認証 【注意事項】」
- IS-ISでグレースフル・リスタート機能を使用する場合,以下の注意事項を参照してください。
「10.2.8 グレースフル・リスタート (2) リスタート機能 (d) 注意事項」
「10.2.8 グレースフル・リスタート (3) ヘルパー機能 (c) 注意事項」
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