解説書 Vol.1
- <この項の構成>
- (1) 概要
- (2) リスタート機能【AX7800S】
- (3) ヘルパー機能
(1) 概要
グレースフル・リスタートは,装置のBCUが系切替したり,運用コマンドなどによりルーティングプログラムが再起動したりしたときに,ネットワークから経路が消えることによる通信停止時間を短縮する機能です。グレースフル・リスタート機能一般については,「12.8 グレースフル・リスタートの概要」を参照してください。
OSPFv3では,グレースフル・リスタートによってOSPFv3の再起動を行う装置のことをリスタートルータといいます。リスタートルータにあるグレースフル・リスタートをする機能をリスタート機能といいます。また,グレースフル・リスタートを補助する隣接装置をヘルパールータといいます。ヘルパールータにあるグレースフル・リスタートを補助する機能をヘルパー機能といいます。
AX7800Sでは,リスタート機能とヘルパー機能をサポートしています。
AX5400Sでは,ヘルパー機能だけをサポートしています。
OSPFv3のコンフィグレーションでは,ドメインごとにリスタート機能とヘルパー機能の動作可否を指定できます。
以下に,OSPFv3でグレースフル・リスタート機能を使用するときの構成上の条件を示します。以下の条件を満たさない場合,グレースフル・リスタートに失敗したり,グレースフル・リスタートが終了するまで通信できない経路ができたりすることがあります。
- グレースフル・リスタートするルータに,リスタート機能を設定してください。本装置でリスタート機能を設定する場合,コンフィグレーションコマンドoptionsでgraceful-restartパラメータを設定し,コンフィグレーションコマンドospf6のgraceful-restartサブコマンドでmode restartまたはmode bothを設定してください。
- グレースフル・リスタートするルータの隣接ルータすべてに,ヘルパー機能を設定してください。本装置でヘルパー機能を設定する場合,コンフィグレーションコマンドospf6のgraceful-restartサブコマンドでmode helperまたはmode bothを設定してください。
(2) リスタート機能【AX7800S】
(a) リスタート機能の動作契機
以下に,本装置でOSPFv3のリスタート機能が動作する契機を示します。
- BCUが系切替したとき。
- ルーティングプログラムが再起動したとき。
(b) グレースフル・リスタートの手順
次の図および次の表にOSPFv3のグレースフル・リスタート手順を示します。
表17-14 OSPFv3グレースフル・リスタート手順
項番 項目 契機 処理内容 1 グレースフル・リスタートの開始 BCUが系切替したとき。 グレースフル・リスタートを開始します。通常の接続手順と同様に,各インタフェースでOSPFv3情報のパケット交換を行います。 ルーティングプログラムが再起動したとき。 2 経路計算 ドメイン内の全OSPFv3インタフェースについて再接続完了し,隣接ルータからすべてのLSAを学習したとき。 ドメインごとに経路計算を行い,ルーティングテーブルを更新します。
複数のドメインが存在する場合,経路計算は接続の終わったドメインから随時行います。経路計算が全ドメインで終了したとき,OSPFv3の経路学習が完了します。1インタフェースでもグレースフル・リスタートに失敗したとき。 その時点での同一ドメイン内の各インタフェースの接続状態に基づいて,経路計算を行います。 3 広告開始 OSPFv3の経路学習が完了し,かつ他のルーティングプロトコルの経路学習が完了したとき。 AS外経路の広告を開始します。広告完了後,通常のOSPFv3動作に戻ります。 OSPFv3のグレースフル・リスタートに失敗したとき。 (c) グレースフル・リスタートが失敗するケース
以下にOSPFv3のグレースフル・リスタートが失敗するケースを示します。
- グレースフル・リスタートの開始をヘルパールータへ通知してからコンフィグレーションコマンドospf6のgraceful-restart restart-timeの時間が経過してもLSA学習を完了できなかった場合。
- 再接続を行っているインタフェースがダウンした場合。
- OSPFv3ドメイン上でLSAが変更された場合。
- OSPFv3ドメイン上の別のルータがグレースフル・リスタートした場合。
- グレースフル・リスタートを開始してから経路保持時間(コンフィグレーションコマンドoptionsのgraceful-restart time-limitの時間)が経過しても全プロトコルの経路学習が完了しなかった場合。
- コンフィグレーションコマンドospf6のgraceful-restart modeを変更し,リスタートルータ機能を削除した場合。
- コンフィグレーションコマンドoptionsを変更し,グレースフル・リスタート機能を削除した場合。
(d) 注意事項
- リスタートルータとして,グレースフル・リスタートを開始しても,一部のヘルパールータがヘルパー動作を開始しない場合や,途中で止めた場合,同一ドメイン内の全インタフェースでグレースフル・リスタートを止めます。
- OSPFv3のリスタート時間(コンフィグレーションコマンドospf6のgraceful-restart restart-timeの時間)を,系切替所要時間 + LSA学習時間を超えるように設定してください。これは,OSPFv3がLSAを学習するためには,系切替が完了してIPv6インタフェースのUp/Downを確認できるようになっている必要があるためです。グレースフル・リスタート開始後,リスタート時間が経過した時点でLSAの学習が終わってない場合,OSPFv3のグレースフル・リスタートに失敗します。
系切替所要時間については,「12.8 グレースフル・リスタートの概要 表12-32 系切替所要時間の目安値」を参照してください。
- 本装置の系切替時ルーティングエントリ保持時間を,OSPFv3のリスタート時間よりも長く設定してください。OSPFv3のリスタート時間よりもルーティングエントリ保持時間のほうが短い場合,経路学習前に系切替前ルーティングエントリが削除されることがあります。
- BGP4+のルーティングピアがグレースフル・リスタートを使用している場合,ルーティングピアのリスタート時間をOSPFv3のリスタート時間よりも長く設定してください。
ルーティングピアのリスタート時間のほうが短い場合,OSPFv3が経路学習を完了する前にルーティングピアを接続することができず,ルーティングピアのグレースフル・リスタートに失敗することがあります。
(3) ヘルパー機能
本装置は,ヘルパールータとして動作している場合,グレースフル・リスタートを行っている間,リスタートルータを経由する経路を維持します。
(a) ヘルパー機能の動作条件
ヘルパー機能が動作する条件を以下に示します。
- 既に同一ドメイン内で別のリスタートルータのヘルパーとなっていないこと。同一ドメイン内で,複数ルータのグレースフル・リスタートに対して同時にヘルパールータとして動作できません。ただし,リスタートルータが1台しかない場合,そのリスタートルータと接続しているインタフェースすべてでヘルパールータとして動作を行います。
- 自ルータがリスタートルータとして,グレースフル・リスタートを実行していないこと。【AX7800S】
- リスタートルータに送信したOSPFv3のUpdateパケットに対するAck待ちの状態でないこと。
(b) ヘルパー機能が失敗するケース
ヘルパールータとしての動作は,隣接が確立するまで,または,リスタートルータから終了の通知を受信するまで継続します。
しかし,以下のイベントが発生した場合,リスタートルータが維持している経路と不整合が発生する可能性があるため,ヘルパー機能を中断し,経路を再計算します。
- 隣接ルータから新しいLSA(定期更新を除く)を学習し,リスタートルータへ広告した場合。
- OSPFv3インタフェースがダウンした場合。
- リスタートルータ以外のルータとの隣接関係の切断または確立によってLSAを更新した場合。
- OSPFv3の同一ドメイン内で,複数のルータが同時に再起動した場合。
- コンフィグレーションコマンドospf6のgraceful-restart modeを変更し,ヘルパー機能を削除した場合。
(c) 注意事項
- 本装置のOSPFv3隣接ルータでOSPFv3リスタート機能を使用する場合,本装置にOSPFv3ヘルパー機能を設定してください。
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