解説書 Vol.1

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14.2.6 IS-IS詳細

<この項の構成>
(1) LSP
(2) IS-ISインタフェースと隣接ルータ認識
(3) 経路広告
(4) 広告経路集約 (サマリー)
(5) LSPの交換と同期
(6) 経路計算

(1) LSP

LSPは,1台のルータ当たり,1レベル当たり,256個生成することができます。LSPは,1パケット当たり最大1492オクテットです。

LSPにはそれぞれLSPを識別するための識別子,LSPIDが振ってあります。LSPIDのフォーマットを次に示します。

図14-7 LSPIDフォーマット

[図データ]

LSPには,その新しさを示すシーケンスナンバー (Sequence Number) があります。最初にLSPを生成するときのシーケンスナンバーは1です。情報の追加・削除・変更によりLSPを作り直すたびに,シーケンスナンバーが1増えます。2台のルータ間で同一LSPのシーケンスナンバーが異なる場合,シーケンスナンバーの大きなLSPをより新しいとみなします。

LSPには,27オクテットのヘッダと,TLVと呼ばれるフィールドが多数含まれています。TLVには,生成元ルータについての各種情報が含まれています。TLVの種別・名前,および広告内容を次の表に示します。

TLVフィールドは,以下の三つのフィールドから成り立っています。

  1. タイプ
    値フィールドに入っている情報の種別を示すフィールドです。長さは1オクテットです。0以上255以下の値をとります。
  2. 長さ
    値フィールドの長さを示すフィールドです。このフィールドの長さは1オクテットです。0以上255以下の値をとります。値の単位はオクテットです。

  3. タイプフィールドに示した種類の広告内容を納めるフィールドです。

    表14-6 TLVの種別

    TLV種別名 タイプ 説明 広告方式(ナロウ・ワイド) 情報一つ当たりの長さ(オクテット) 本装置のサポート
    Area Addresses 1 このルータの所属するエリアアドレス 両方に含まれる エリアアドレスの長さ + 1
    (可変長)
    サポート
    Intermediate System Neighbours 2 このルータと接続している隣接ルータ ナロウだけ 11 サポート
    End System Neighbours 3 このルータと接続しているOSIホスト機器 両方に含まれる 未サポート
    Partition Designated Level 2 Intermediate System 4 エリアが分断されたときの,分断範囲内の代表ルータ 両方に含まれる 未サポート
    Prefix Neighbours 5 このルータが広告しているOSI経路宛先 両方に含まれる 未サポート
    Authentication Information 10 LSPの認証情報 両方に含まれる 認証の設定による(可変長) サポート
    Optional Checksum 12 LSPのチェックサム 両方に含まれる 2 未サポート
    extended IS reachability 22 TE (トラフィック・エンジニアリング) 情報を含む,隣接ルータ情報 ワイドだけ 11 + TE情報長
    (可変長)
    メトリック拡張だけサポート
    IP Internal Reachability Information 128 このルータが広告するIPv4内部経路 ナロウだけ 12 サポート
    Protocol Supported 129 このルータのサポートプロトコル体系 両方に含まれる 1 サポート
    IP External Reachability Information 130 このルータが広告するIPv4外部経路 ナロウだけ 12 サポート
    Inter-Domain Routing Protocol Information 131 IS-ISドメイン外ルーティングプロトコルの追加情報 両方に含まれる 規定なし 未サポート
    IP Interface Address 132 IPv4インタフェースアドレス 両方に含まれる 4 サポート
    Traffic Engineering router ID 134 TEで使用するこのルータのルータID 両方に含まれる 4 未サポート
    extended IP reachability 135 TE情報を含む,IPv4経路情報 ワイドだけ 5 + 宛先アドレス長 + TE情報長
    (可変長)
    メトリック拡張だけサポート
    Dynamic Hostname 137 このルータの装置名 両方に含まれる 名前の長さ
    (可変長)
    サポート
    IPv6 Interface Address 232 IPv6インタフェースアドレス 両方に含まれる 16 サポート
    IPv6 Reachability 236 IPv6経路情報 両方に含まれる 8 + 宛先アドレス長 + TE情報長
    (可変長)
    サポート

    (凡例) −:該当しない


(2) IS-ISインタフェースと隣接ルータ認識

IS-ISでは,インタフェースから定期的にIS-IS Hello PDU (IIH) というパケットを送信しています。対向装置からIIHパケットを受信すると,対向装置を隣接ルータとして認識します。

IIHパケットには,パケットの有効時間 (ホールドタイマ) が含まれています。IIHを受信してからホールドタイマの時間 (単位: 秒) の間,隣接ルータを認識しつづけます。通常,ホールドタイマはIIHパケットの送信間隔よりも十分に長いため,IIHパケットを受信しつづける限り,隣接ルータとの接続が途絶えることはありません。

本装置がIS-ISプロトコルを交換するためには,IS-ISインタフェースが以下の条件を満たす必要があります。

IIHパケットを受信したときに,対向装置を隣接ルータとして受け入れるためには,以下の条件を満たす必要があります。

本装置では,IIHパケット送信間隔,およびIIHパケット送信間隔とホールドタイマの比を設定できます。デフォルトでは,IIHパケット送信間隔は10秒,ホールドタイマ比は3倍です。このとき,ホールドタイマは30秒になります。

ただし,本装置が代表ルータとなっているインタフェースについてだけ,IIHパケット送信間隔に,IIHパケット送信間隔として設定した値をホールドタイマ比で割った値を使用します。この場合,デフォルトでは,IIHパケット送信間隔は3秒,ホールドタイマは9秒になります。

(3) 経路広告

IS-ISへの経路広告の要因と,経路広告情報の詳細を以下に示します。

経路広告情報をLSPに追加する際,プロトコル体系 (IPv4・IPv6) や,広告方式 (ナロウ・ワイド) によって,広告できない情報やメトリック値の切り詰めが発生します。詳細は「表14-3 IS-IS広告方式と経路属性」をご参照ください。

IS-ISインタフェースのネットワークアドレス・プレフィックス広告時のデフォルト値を次の表に示します。

表14-7 IS-ISインタフェースのネットワークアドレス・プレフィックス広告時のデフォルト値

広告パラメータ デフォルト値 フィルタによる変更
広告する・しない する 不可能
IS-IS経路集約の対象になる・ならない
  • レベル1インタフェース
    →集約されない
  • レベル2インタフェース
    →集約されない
  • レベル1-2インタフェース
    →レベル1は集約されない
    レベル2は集約される
不可能
広告先レベル
  • レベル1インタフェース
    →レベル1
  • レベル2インタフェース
    →レベル2
  • レベル1-2インタフェース
    →レベル1とレベル2の両方
不可能
広告
属性
経路種別 内部経路 不可能
メトリック種別 インターナルメトリック 不可能
メトリック値 IS-ISインタフェースのメトリック値
(デフォルト: 10)
不可能
ダウン ダウン経路にはならない 不可能

注※ IS-ISインタフェースの該当レベルのメトリックを変更することで,変更可能です。


(4) 広告経路集約 (サマリー)

IS-ISでは,多数の広告経路を,その経路宛先を包含するひとつのネットワークアドレス・プレフィックスに集約して広告することができます。この機能をサマリーと呼びます。

サマリーするネットワークアドレス・プレフィックスを指定した場合,これに包含される宛先への経路広告は全て削除され,その代わりにサマリーのネットワークアドレス・プレフィックスが広告されます。このとき,付加情報は,集約において最短である経路の付加情報を使用します。経路広告集約時の選択アルゴリズムを次の表に示します。

表14-11 経路集約時の経路属性引き継ぎ元経路選択条件の優先順位

選択条件の
優先順位
名前 比較方法


 
 

経路種別 内部経路を優先します。
メトリック種別 メトリック種別がインターナルメトリックである経路を選択します。
エクスターナル メトリック時の広告メトリック値 メトリック種別がエクスターナルメトリックである場合,広告メトリックの小さい経路を選択します。
インターナルメトリック値 インターナルメトリックの小さい経路を選択します。

(5) LSPの交換と同期

IS-ISでは,隣接ルータとの間で,互いに所持していないLSPを送信しあいます。新たにLSPを生成または受信した場合,これを全隣接ルータに送信します。これにより,本装置と隣接ルータとの間で,同じLSPの集合を保持するようにします。これをLSPの同期といいます。

LSP同期手順により,本装置のLSPは全ての隣接ルータに送信されます。また,隣接ルータでは,隣接ルータのすべての隣接ルータに本装置のLSPを送信します。隣接ルータの隣接ルータでは,さらにその全隣接ルータにLSPを送信します。この手順により,本装置のLSPは該当レベルドメイン上の全ルータに配布されます。また,そのレベルのドメイン上にある全ルータLSPが本装置に集まります。

point-to-point,およびgeneric topology型のOSIインタフェースでは,LSPの同期を以下の手順で行います。

  1. 隣接ルータ認識時に,本装置の全LSPのLSPIDを列挙したパケット (CSNP: Complete Sequence Numbers PDU) を送信します。
    隣接ルータからも,隣接ルータの全LSPのLSPIDを列挙したCSNPが送信されてきます。
  2. 隣接ルータのCSNP中に本装置が保持していないLSPのLSPIDが含まれている場合,LSP更新を示すパケット (PSNP: Partial Sequence Numbers PDU) を使用して送信します。このとき,該当LSPのLSPIDについて,LSPのバージョンを0として送信します。
  3. 隣接ルータがPSNPを受信すると,本装置が所持しているLSPが,隣接ルータの所持しているLSPよりもバージョンが古い (小さい) ことがわかります。これに基づき,隣接ルータは該当LSPを送信します。
  4. 本装置がLSPを受信し,これをLSPデータベースに保持します。該当隣接ルータ以外にも隣接ルータが存在する場合,受信したLSPのLSPIDとそのバージョンを,PSNPでほかの隣接ルータへ送信します。

broadcast型のOSIインタフェースでは,LSPの同期を以下の手順で行います。

  1. まず,インタフェース上にある隣接ルータと本装置の中から,代表ルータ (DIS: Designated IS) を1台選択します。
  2. 代表ルータは,定期的に代表ルータの保持する全LSPのLSPIDをCSNPによりブロードキャストで送信します。
  3. CSNPを受信したルータにおいてCSNPに含まれるLSPIDを保持していない場合,そのLSPIDを,LSPのバージョンを0としてPSNPでブロードキャストで送信します。
  4. CSNPを受信したルータにおいてCSNPに含まれるLSPIDのバージョンの方が保持しているLSPIDのバージョンよりも新しい場合,そのLSPIDを,受信ルータの保持するLSPバージョンでPSNPでブロードキャストで送信します。
  5. CSNPまたはPSNPを受信したルータにおいて,含まれているLSPIDのバージョンが保持しているバージョンよりも古い場合,該当LSPをブロードキャストで送信します。
  6. LSPを受信した場合,これが保持するLSPよりも新しければ,LSPデータベースに保持します。受信ルータに他にIS-ISインタフェースが存在する場合,ほかのインタフェース上にある隣接ルータへ,受信したLSPのLSPIDとそのバージョンを,PSNPでほかの隣接ルータへ送信します。

(6) 経路計算

IS-ISでは,LSPデータベース上のLSPが更新されたときに経路計算を行います。経路計算は,まずレベルごとに別個に行います。経路計算の手順は以下のとおりです。

  1. LSPデータベースから隣接ルータ情報を抜き出し,ドメイン上のIS-ISルータと隣接関係からなるネットワーク構成図 (トポロジ) を書き出します。
  2. 書き出したネットワーク構成図と,そこに書いてあるルータ間のメトリックから,ネットワーク上の全ルータへの最短経路を計算します。短いとは,メトリックが小さいことを指します。最短経路が複数ある場合,そのルータへのネクストホップは複数になります (マルチパス)。
  3. 次に,最短経路が求まった全ルータについて,そのルータがLSPに広告している全経路を取り出します。
  4. 同じ経路を広告しているルータが複数ある場合,「14.2.3 経路選択アルゴリズム」に記述のアルゴリズムに従い,最短経路を選び出します。最短経路を広告しているルータが複数ある場合,最短経路はマルチパスになります。

経路計算によりレベル別経路を計算後,レベル別の経路を統合して,以下の規則によってIS-ISとしての最短経路を選択します。

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