解説書 Vol.1

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13.3.11 グレースフル・リスタート

<この項の構成>
(1) 概要
(2) グレースフル・リスタートの動作手順
(3) リスタートルータの機能【AX7800S】
(4) レシーブルータの機能
(5) グレースフル・リスタート使用時の注意事項

(1) 概要

グレースフル・リスタートは,装置のBCUが系切替したり,運用コマンドなどによりルーティングプログラムが再起動したりしたときに,ネットワークから経路が消えることによる通信停止時間を短縮する機能です。グレースフル・リスタート機能一般については,「12.8 グレースフル・リスタートの概要」 をご参照ください。

BGP4では,グレースフル・リスタートによってBGP4の再起動を行う装置のことをリスタートルータといいます。また,グレースフル・リスタートを補助する隣接装置をレシーブルータといいます。

AX7800Sでは,リスタートルータの機能とレシーブルータの機能をサポートしています。

AX5400Sでは,レシーブルータの機能だけをサポートしています。

本装置でのグレースフル・リスタートの例を次の図に示します。

図13-24 グレースフル・リスタートの例

[図データ]

AS100の本装置B,本装置Cは,装置アドレスをピアアドレスとするルーティングピアのBGPコネクションを確立しており,本装置BはAS200の本装置Aと,また本装置CはAS300のルータと,それぞれインタフェースのアドレスをピアアドレスとする外部ピアのBGPコネクションを確立しているとします。それぞれのBGPコネクションでは,グレースフル・リスタート機能のネゴシエーションが成立しているとします。本装置Bがグレースフル・リスタートしたとき,当該装置とのBGPコネクションを持っている本装置A,および本装置Cはレシーブルータとして動作し,本装置Bを経由するパケット・フォワーディングを停止しないで継続します。また,本装置BはPSUによって,パケットの転送処理を継続します。これによって,本装置Bを経由するエンド・エンドの通信を維持しつづけることができます。

以下にBGP4のグレースフル・リスタートが正しく動作するための条件を示します。以下の条件を満たさない場合,通常のリスタート動作となって,通信が停止します。

(2) グレースフル・リスタートの動作手順

BGP4によるグレースフル・リスタートの動作シーケンスを次の図に示します。

図13-25 グレースフル・リスタートのシーケンス

[図データ]

  1. グレースフル・リスタートするルータと,その隣接ルータの間で,BGPコネクションを確立するときにグレースフル・リスタート機能のネゴシエーションを行い,グレースフル・リスタートを実施する準備をします。
  2. ルータがグレースフル・リスタートすると,リスタートルータの動作を開始します。
  3. 隣接ルータは,BGPのコネクションが切断したとき,レシーブルータの動作を開始して,リスタートルータから学習している経路情報を保持し,パケットのフォワーディングを継続します。
  4. BGPコネクションが再確立すると,最初にレシーブルータからリスタートルータへ経路情報を配布します。
  5. リスタートルータで,グレースフル・リスタートを実行しているすべてのプロトコルの学習が完了すると,リスタートルータからレシーブルータへ経路情報を配布します。
  6. 5.と同じ。
  7. 最後にレシーブルータは,リスタートルータから学習している経路情報のうちで,BGPコネクションの再確立後に受信しなかった,古い経路情報を破棄します。

(3) リスタートルータの機能【AX7800S】

(a) 動作契機

以下に,本装置でBGP4のリスタートルータの機能が動作する契機を示します。

(b) リスタートルータの機能

グレースフル・リスタートの開始後に,BGPコネクションが再確立するまでの待ち時間の上限を,コンフィグレーションコマンドbgpのrestart-timeサブコマンドの指定に従って監視します(「図13-25 グレースフル・リスタートのシーケンス」の(a))。この時間内にBGPコネクションが再確立しない場合,リスタートルータは当該レシーブルータからの経路情報配布を待たずに,自ルータからの経路情報配布を開始します。これによって,不安定な状態とみられる当該レシーブルータが経路収束へ影響することを回避します。

リスタートルータが経路情報の受信完了を待ち,経路配布を開始する時間の上限は,optionsコマンドのgraceful-restart time-limitパラメータの指定値に従います(「図13-25 グレースフル・リスタートのシーケンス」の(c))。

各パラメータを設定する場合は,一般に次のようにしてください。

また,BGP経路情報のNextHop属性をIGP経路によって解決する構成では,次のように設定してください。

(c) グレースフル・リスタートが失敗するケース

以下に,BGP4のグレースフル・リスタートが失敗するケースを示します。

(4) レシーブルータの機能

(a) 動作契機

以下に,本装置でBGP4のレシーブルータの機能が動作する契機を示します。

(b) レシーブルータの機能

グレースフル・リスタートの開始後に,BGPコネクションが再確立するまでの待ち時間の上限を,コンフィグレーションコマンドbgpのrestart-timeサブコマンドの指定に従って監視します(「図13-25 グレースフル・リスタートのシーケンス」の(b))。この時間内にBGPコネクションが再確立しない場合,レシーブルータは,リスタートルータから学習している経路情報を破棄して,リスタートルータを経由するパケット・フォワーディングを停止します。

restart-timeの値は,グレースフル・リスタート機能のネゴシエーションを行うときに,ピアへ通知されます。本装置では,ピアから通知されたrestart-timeの値が,自装置のコンフィグレーション値より小さいとき,通知されたrestart-timeの値を使用して監視を行います。

レシーブルータがリスタートルータの再起動前に学習した経路情報を保持しておく時間の上限はBGP4コンフィグレーションのstale-routes-retain-timeサブコマンドで指定します(「図13-25 グレースフル・リスタートのシーケンス」の(d))。

各パラメータを設定する場合は,一般に次のようにしてください。

(c) レシーブルータ機能が失敗するケース

以下に,BGP4のグレースフル・リスタートが失敗するケースを示します。

(5) グレースフル・リスタート使用時の注意事項

  1. TCP MD5の併用について
    グレースフル・リスタートをサポートするBGPコネクションが確立しているとき,ピアから新しいコネクションの要求を受けた場合,プロトコルの規定によって,確立中のBGPコネクションを破棄し,新しいBGPコネクションを使用します。この動作によるセキュリティ上の問題を防ぐためにTCP MD5認証を併用してください。
  2. IGPへ依存する環境でのグレースフル・リスタートについて
    BGPコネクションにルーティングピアを使用し,ピアアドレス宛ての経路情報をIGPによって交換している場合や,ルート・リフレクションを使用する構成などで,BGP経路情報のNextHop属性をIGP経路によって解決する場合は,当該IGPについてもグレースフル・リスタートの機能を設定してください。

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