解説書 Vol.2
- <この項の構成>
- (1) 系切替時の引き継ぎ情報
- (2) BCU切替時の本装置と相手装置の中継動作【AX7800S】
- (3) BCUおよびBSU切替時の本装置と相手ルータの中継動作【AX5400S】
- (4) コンフィグレーション不一致時の処理
AX7800Sでは運用系と待機系を切り替えた場合,次に示す情報を引き継ぎます。
AX5400Sでは運用系と待機系を切り替えてもFDBエントリ情報およびルーティングエントリ情報の引き継ぎはしません。
- 旧運用系BCUに障害が発生するまでに処理したFDBエントリ情報
- 旧運用系BCUに障害が発生するまでに処理したルーティングエントリ情報
- 本装置の動作
AX7800Sでは旧運用系BCUに障害が発生した時点までのルーティングエントリ情報は,新運用系がルーティング処理動作を開始するまでの間,装置内に保持されています。したがって,障害時点で装置を介して行っている通信はそのまま保証されます。旧運用系から新運用系への引き継ぎ処理中に発生した経路更新情報は,新運用系への切替後にルーティングエントリ情報に反映されます。
AX5400Sでは旧運用系BCUまたはBSUに障害が発生した時点までのルーティングエントリ情報は新運用系に引き継がれません。したがって,新運用系へ切替後にルーティングエントリ情報を再学習するまで通信が停止します。
- 経路情報を交換している相手装置の動作
相手装置は一時的に本装置と経路情報を交換できなくなるため,通信断となります。旧運用系から新運用系への切替後,経路情報の交換を再開すれば通信が復旧します。
- closeコマンドによる閉塞状態情報
旧運用系から新運用系への移行時に,AX7800SではPSU,NIFおよび回線,AX5400SではNIFおよび回線の閉塞運用状態を引き継ぐことによって,制御上の不一致発生を回避します。
(2) BCU切替時の本装置と相手装置の中継動作【AX7800S】
BCU切替時の本装置と相手装置の中継動作について概要を説明します。BCUの切替を次の図に示します。
この図では端末aとd,bとcがルータX,Y,本装置を介して通信している例です。使用しているルーティングプロトコル(RIP,OSPF,BGP4,IS-IS,RIPng,OSPFv3,BGP4+)によって相手ルータの動作が異なります。次にルーティングプロトコルごとのBCU切替について説明します。
(a) ルーティングプロトコルにRIP,RIPngを使用している場合
RIPとRIPngでは相手ルータの動作が同じなのでRIPを例に説明します。
- 系切替前
端末aとd,bとcが通信を行っています。また,本装置,ルータX,ルータYはお互いRIPの送受信を行い,ルーティング情報をやり取りします。RIP系切替前を次の図に示します。
- 系切替発生
本装置の運用系に障害が発生して系切替を行います。新待機系BCUのルーティングテーブルは初期化されます。新運用系BCUのルーティングテーブルはルーティングプロトコルの学習が始まっていないため,まだエントリはありません。PSUのルーティングテーブルを系切替によって初期化しません。また,ルータX,Yも本装置のダウンを検出しないため,端末aとd,bとcの通信は継続します。RIP系切替発生を次の図に示します。
- 系切替後
本装置はルータX,Yが本装置のダウンを検出する前に系切替を完了してRIPのやり取りを再開します。ルータX,Yが送信するRIPを受信し,ルーティングテーブルを再学習します。PSU,ルータX,Yのルーティングテーブルが変化しないため,端末aとd,bとcの通信は継続しています。RIP系切替後を次の図に示します。
(b) ルーティングプロトコルにOSPF,BGP4,IS-IS,OSPFv3,BGP4+を使用している場合
RIP/RIPng以外のプロトコルには,隣接ルータとの接続切断を検出する機能があります。グレースフル・リスタート機能を使用していない場合,本装置が系切替すると,隣接ルータでは以前の接続が切断したものと認識します。この結果,隣接ルータがパケット転送を停止するため,本装置を経由する通信が一時的に停止します。グレースフル・リスタートを使用する場合については,「(c) グレースフル・リスタートを使用する場合」を参照してください。
以下,OSPF,BGP4,IS-IS,OSPFv3,BGP4+では相手ルータの動作が同じなのでBGP4を例に説明します。
- 系切替前
端末aとd,bとcが通信を行っています。また,本装置,ルータX,ルータYはお互いBGP4の送受信を行い,ルーティング情報をやり取りします。BGP4系切替前を次の図に示します。
- 系切替発生
本装置の運用系に障害が発生して系切替を行います。新待機系BCUのルーティングテーブルは初期化されます。新運用系BCUのルーティングテーブルはルーティングプロトコルの学習が始まっていないため,まだエントリはありません。PSUのルーティングテーブルは系切替によって再初期化しないため,端末bとcの通信は継続します。端末aとdの通信は,本装置とルータX,YのBGP4のTCPセッションが切れ,ルータX,Yのルーティングテーブルが削除されるので停止します。BGP4系切替発生を次の図に示します。
- 系切替後
本装置は系切替完了後,TCPセッションを確立してBGP4のやり取りを再開し,ルーティングテーブルを再学習します。ルータX,Yでもルーティングテーブルを再学習します。PSUのルーティングテーブルは系切替によって再初期化しないため,端末bとcの通信は継続します。端末aとdの通信は,ルータX,Yのルーティングテーブルの再学習によって再開します。BGP4系切替後を次の図に示します。
ルーティングテーブルの再学習を完了するまでの目安時間は,経路交換開始時間と経路情報数に依存する経路交換時間・経路計算時間の合計です。本装置のデフォルト値でプロトコルが動作した場合の経路交換開始時間を次に示します。
- OSPFの経路交換開始時間は,系切替後約40秒です。(対向ルータとのインタフェースがイーサネットの場合)
- BGP4の経路交換開始時間は,系切替後約90〜130秒です。
(c) グレースフル・リスタートを使用する場合
グレースフル・リスタートは,装置のBCUが系切替したり,運用コマンドなどによりルーティングプログラムが再起動したりしたときに,ネットワークから経路が消えることによる通信停止時間を短縮する技術です。
「(b) ルーティングプロトコルにOSPF,BGP4,IS-IS,OSPFv3,BGP4+を使用している場合」で説明したように,装置のBCUが系切替したとき,隣接ルータでは以前の接続が切断したものと認識して,経路を削除するため,ネットワーク全体では通信が停止します。
グレースフル・リスタートでは,この問題を解決して切替時の通信停止時間を短縮します。具体的には以下の方法によって解決します。
- 隣接ルータに,グレースフル・リスタートを補助する機能を用意します。グレースフル・リスタートによる接続要求を受け取ったときに,以前の接続を切断して再接続するのではなく,以前の接続を継続しているものと認識する機能を追加します。これによって,ルーティングプログラム切替時にも隣接ルータとの接続が切断しなくなるため,隣接ルータも経路を保持したまま動作します。
- 経路学習・経路広告の処理順序を固定します。グレースフル・リスタートでは,まず隣接ルータから経路情報を学習し,経路を学習し終わってから経路広告を開始します。これにより,経路広告時にはすべての経路を広告するため,一部経路しか広告しないことによって隣接ルータから経路が消えることがなくなります。
以下,グレースフル・リスタートを使用している場合の動作を説明します。OSPF,BGP4,IS-IS,OSPFv3,BGP4+では相手ルータの動作が同じなのでBGP4を例に説明します。
- 系切替前
次の図に,系切替前の通信状態を示します。端末aとd,bとcが通信を行っています。また,本装置,ルータX,ルータYはお互いBGP4の送受信を行い,ルーティング情報を交換します。本装置にはグレースフル・リスタート機能が動作するように設定しておきます。また,ルータX・ルータYにはグレースフル・リスタートの補助機能が動作するように設定しておきます。
- 系切替発生
次の図に,系切替中の通信状態を示します。
本装置の運用系に障害が発生して系切替を行います。新待機系BCUのルーティングテーブルは初期化されます。新運用系BCUのルーティングテーブルはルーティングプロトコルの学習が始まっていないため,まだエントリはありません。PSUの経路は,すべて系切替前ルーティングテーブルに移動します。系切替前ルーティングテーブルに経路が残っているので,端末bとcの通信は継続します。本装置とルータX,ルータYのBGP4のTCPセッションは切断されますが,グレースフル・リスタートの補助機能が働くので,ルータX,ルータYのルーティングテーブルは削除されません。このため,端末aとdの通信も継続します。
- 経路学習
次の図に,グレースフル・リスタート経路学習時の通信状態を示します。
本装置は系切替完了後,TCPセッションを確立してBGP4の通信を再開します。このとき,まずルータX,ルータYからの経路学習を行い,通常のルーティングテーブルに学習経路を上書きします。この間,系切替前,系切替後どちらかの経路が本装置のPSUに存在しており,またルータX,ルータYすべて系切替前の経路を保持しているので,端末aとdの通信,端末bとcの通信両方とも継続します。
- 経路広告
次の図に,グレースフル・リスタート経路広告時の通信状態を示します。
本装置が経路学習を完了したら,系切替前からあった経路を削除し,ルータX,ルータYへの経路広告を開始します。ルータX,ルータYでは,この広告経路によって系切替前に学習した経路を上書きします。この間も端末aとdの通信は継続します。
本装置の経路広告が完了したら,通常のBGP4の運用状態に戻ります。
- [注意事項]
- グレースフル・リスタート一般の適用範囲については,「解説書 Vol.1 12.8 グレースフル・リスタートの概要」を参照してください。
- 各プロトコル固有のグレースフル・リスタートの方式・動作・適用範囲については,以下を参照してください。
OSPF:「解説書 Vol.1 12.5.9 グレースフル・リスタート」
BGP4:「解説書 Vol.1 13.3.11 グレースフル・リスタート」
IS-IS:「解説書 Vol.1 14.2.8 グレースフル・リスタート」
OSPFv3:「解説書 Vol.1 17.5.8 グレースフル・リスタート」
BGP4+:「解説書 Vol.1 18.3.11 グレースフル・リスタート」
- PSUの経路保持時間を,グレースフル・リスタートの経路学習時間よりも長くなるように設定してください。経路保持時間のほうが短い場合,系切替後の新しい経路を学習する前に切替前の経路を削除するので,通信が停止します。
(d) マルチキャストルーティングプロトコルにPIM-SMを使用している場合【OP-MLT】
IPv4 PIM-SM,IPv4 PIM-SSM,IPv6 PIM-SM,IPv6 PIM-SSM,PIM-DM,DVMRPでは動作が同じなので,IPv4 PIM-SMを例に説明します。
IPv6 PIM-SM,IPv6 PIM-SSMの場合はIGMPがMLDとなります。また,IPv4 PIM-SSM,IPv6 PIM-SSM,IPv4 PIM-DM,DVMRPにはランデブーポイントは存在しません。
IPv4 PIM-SM,IPv6 PIM-SSMは系切替時に通信を継続できるnonstop forwarding機能をサポートしています。nonstop forwarding機能については「(e) マルチキャストルーティングプロトコルにPIM-SM(nonstop forwarding機能)を使用している場合【OP-MLT】」を参照してください。
- 系切替前
マルチキャストサーバSがマルチキャストグループアドレス(G1)宛にデータを配信します。
ランデブーポイントをルータXとし,端末a,b,cがIGMPによってグループG1に参加し,本装置,ルータX,ルータYはPIM-SMの送受信を行いマルチキャストルーティング情報を作成します。PIM-SM系切替前を次の図に示します。
マルチキャストサーバSが送信するマルチキャストデータは端末a,b,cに配信されています。
- 系切替発生
本装置運用系に障害が発生して系切替を行います。新待機系BCUのマルチキャストルーティングテーブルを初期化します。
新運用系BCUのマルチキャストルーティングテーブルとPSUのルーティングテーブルも系切替により初期化します。したがって,マルチキャストサーバSが配信するマルチキャストデータは端末aには配信されますが,端末b,cには配信されません。
この状態から新運用系のマルチキャスト学習が始まります。
PIM-SM系切替発生を次の図に示します。
- 系切替後
本装置はルータX,Yが本装置のダウンを検出する前に系切替を完了して,PIM-SMのやり取りを再開します。ルータX,Yが送信するPIM-SMを受信し,マルチキャストルーティングテーブルを再学習します。また,端末bとIGMPのやり取りを再開し,マルチキャストG1への参加の再認識を行い,マルチキャスト中継が再開し,マルチキャストデータを端末a,b,cに配信します。PIM-SM系切替後を次の図に示します。
マルチキャスト中継が再開するまでの目安時間は経路交替開始時刻と経路情報数に依存する系切替時間・対向装置認識時間・経路交換時間・経路計算時間の合計です。系切替時間はコンフィグレーションの量によって変化します。系切替発生時のマルチキャスト中継再開までの時間を次に示します。
- IPv4 PIM-SM/IPv6 PIM-SMのマルチキャスト中継再開時間は系切替およびユニキャスト経路再学習後0〜215秒です。ただし,本装置がランデブーポイント(兼BSR)の場合は60〜245秒です。
- IPv4 PIM-SSM/IPv6 PIM-SSMのマルチキャスト中継再開時間は系切替およびユニキャスト経路再学習後0〜155秒です。
- IPv4 PIM-DMのマルチキャスト中継再開時間は系切替およびユニキャスト経路再学習後0〜30秒です。
- DVMRPのマルチキャスト中継再開時間は系切替後0〜70秒です。
(e) マルチキャストルーティングプロトコルにPIM-SM(nonstop forwarding機能)を使用している場合【OP-MLT】
IPv4 PIM-SM,IPv6 PIM-SSMは系切替時に通信を継続することが可能なnonstop forwarding機能をサポートしています。
本機能は,コンフィグレーションでnonstop-forwarding設定をした場合だけ有効です。nonstop-forwarding設定をしない場合は,「(d) マルチキャストルーティングプロトコルにPIM-SMを使用している場合【OP-MLT】」と同様の動作となります。
IPv4 PIM-SM,IPv6 PIM-SSMでは動作が同じなので,IPv4 PIM-SMを例にnonstop forwarding機能について説明します。
IPv6 PIM-SSMの場合は,IGMPがMLDとなりランデブーポイントは存在しません。
- 系切替前
マルチキャストサーバSがマルチキャストグループアドレス(G1)宛にデータを配信します。
ランデブーポイントをルータXとし,端末a,b,cがIGMPによってグループG1に参加し,本装置,ルータX,ルータYはPIM-SMの送受信を行いマルチキャストルーティング情報を作成します。
PIM-SM系切替前を次の図に示します。
マルチキャストサーバSが送信するマルチキャストデータは端末a,b,cに配信されています。
図4-18 BCU切替(PIM-SM系切替前)
- 系切替発生
本装置運用系に障害が発生して系切替を行います。新待機系BCUのマルチキャストルーティングテーブルは初期化されます。新運用系BCUのマルチキャストルーティングテーブルはマルチキャストルーティングプロトコルの学習が始まっていないため,まだエントリはありません。PSUのルーティングテーブルを系切替によって初期化しません。また,ルータX,Yも本装置のダウンを検出しないため,マルチキャストサーバSから端末a,b,cへの配信は継続します。
PIM-SM系切替発生を次の図に示します。
図4-19 BCU切替(PIM-SM系切替発生)
- 系切替後
本装置はルータX,Yが本装置のダウンを検出する前に系切替を完了して,PIM-SMのやり取りを再開します。ルータX,Yが送信するPIM-SMを受信し,マルチキャストルーティングテーブルを再学習します。また,端末bとIGMPのやり取りを再開し,マルチキャストG1への参加の再認識を行います。PSU,ルータX,ルータYのマルチキャストルーティングテーブルが変化しないため,マルチキャストサーバSから端末a,b,cへの配信は継続しています。再学習完了後,本装置は未学習のマルチキャスト中継エントリをPSUから削除します。PIM-SM系切替後を次の図に示します。
図4-20 BCU切替(PIM-SM系切替後)
- [注意事項]
- IPv4 PIM-SM nonstop forwarding機能についての注意事項は「解説書 Vol.1 15.6.1(3) PIM-SMの使用」を参照してください。
- IPv6 PIM-SSM nonstop forwarding機能についての注意事項は「解説書 Vol.1 19.6.1(3) IPv6 PIM-SSM」を参照してください。
(3) BCUおよびBSU切替時の本装置と相手ルータの中継動作【AX5400S】
本装置の運用系に障害が発生して系切替が発生した場合,旧運用系で保持していたBCUおよびBSUのルーティングテーブルは新運用系に引き継がれないで初期化されます。このため,系切替が完了しても相手ルータからルーティング情報を再学習するまで通信が停止します。
一重化の運用中に運用系のコンフィグレーションを変更したあとで二重化運用に戻した場合,運用系と待機系でコンフィグレーションの差分が生じます。この状態では系切替発生時に運用上の動作矛盾が発生する可能性があります。このため,本装置では警告メッセージを出すとともに両系のコンフィグレーションの同期が取れるまで以降の系切替を抑止,または系切替後PSU(AX5400SではBSU)が再起動します。
また,立ち上げ時にコンフィグレーションの差分が生じた場合も同様の処理をします。この場合は,ユーザ操作(コマンド)でコンフィグレーションの同期を取る必要があります。
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