解説書 Vol.1
- <この項の構成>
- (1) LSP
- (2) IS-ISインタフェースと隣接ルータ認識
- (3) 経路広告
- (4) 広告経路集約 (サマリー)
- (5) LSPの交換と同期
- (6) 経路計算
(1) LSP
LSPは,1台のルータ当たり,1レベル当たり,256個生成することができます。LSPは,1パケット当たり最大1492オクテットです。
LSPにはそれぞれLSPを識別するための識別子,LSPIDが振ってあります。LSPIDのフォーマットを次に示します。
図10-7 LSPIDフォーマット
- 装置識別子
LSP生成もとの装置識別子です。
- ノード識別子
装置以外にLSPを生成するbroadcast型OSIネットワークと区別するための識別子です。ルータ自体のLSPは,この値が0になります。
- フラグメント番号
同一ルータ上の256個のLSPを区別するための番号です。
LSPには,その新しさを示すシーケンスナンバー (Sequence Number) があります。最初にLSPを生成するときのシーケンスナンバーは1です。情報の追加・削除・変更によりLSPを作り直すたびに,シーケンスナンバーが1増えます。2台のルータ間で同一LSPのシーケンスナンバーが異なる場合,シーケンスナンバーの大きなLSPをより新しいとみなします。
LSPには,27オクテットのヘッダと,TLVと呼ばれるフィールドが多数含まれています。TLVには,生成元ルータについての各種情報が含まれています。TLVの種別・名前,および広告内容を次の表に示します。
TLVフィールドは,以下の三つのフィールドから成り立っています。
- タイプ
値フィールドに入っている情報の種別を示すフィールドです。長さは1オクテットです。0以上255以下の値をとります。
- 長さ
値フィールドの長さを示すフィールドです。このフィールドの長さは1オクテットです。0以上255以下の値をとります。値の単位はオクテットです。
- 値
タイプフィールドに示した種類の広告内容を納めるフィールドです。
表10-6 TLVの種別
TLV種別名 タイプ 説明 広告方式(ナロウ・ワイド) 情報一つ当たりの長さ(オクテット) 本装置のサポート Area Addresses 1 このルータの所属するエリアアドレス 両方に含まれる エリアアドレスの長さ + 1
(可変長)サポート Intermediate System Neighbours 2 このルータと接続している隣接ルータ ナロウだけ 11 サポート End System Neighbours 3 このルータと接続しているOSIホスト機器 両方に含まれる − 未サポート Partition Designated Level 2 Intermediate System 4 エリアが分断されたときの,分断範囲内の代表ルータ 両方に含まれる − 未サポート Prefix Neighbours 5 このルータが広告しているOSI経路宛先 両方に含まれる − 未サポート Authentication Information 10 LSPの認証情報 両方に含まれる 認証の設定による(可変長) サポート Optional Checksum 12 LSPのチェックサム 両方に含まれる 2 未サポート extended IS reachability 22 TE (トラフィック・エンジニアリング) 情報を含む,隣接ルータ情報 ワイドだけ 11 + TE情報長
(可変長)メトリック拡張だけサポート IP Internal Reachability Information 128 このルータが広告するIPv4内部経路 ナロウだけ 12 サポート Protocol Supported 129 このルータのサポートプロトコル体系 両方に含まれる 1 サポート IP External Reachability Information 130 このルータが広告するIPv4外部経路 ナロウだけ 12 サポート Inter-Domain Routing Protocol Information 131 IS-ISドメイン外ルーティングプロトコルの追加情報 両方に含まれる 規定なし 未サポート IP Interface Address 132 IPv4インタフェースアドレス 両方に含まれる 4 サポート Traffic Engineering router ID 134 TEで使用するこのルータのルータID 両方に含まれる 4 未サポート extended IP reachability 135 TE情報を含む,IPv4経路情報 ワイドだけ 5 + 宛先アドレス長 + TE情報長
(可変長)メトリック拡張だけサポート Dynamic Hostname 137 このルータの装置名 両方に含まれる 名前の長さ
(可変長)サポート IPv6 Interface Address 232 IPv6インタフェースアドレス 両方に含まれる 16 サポート IPv6 Reachability 236 IPv6経路情報 両方に含まれる 8 + 宛先アドレス長 + TE情報長
(可変長)サポート (凡例) −:該当しない
(2) IS-ISインタフェースと隣接ルータ認識
IS-ISでは,インタフェースから定期的にIS-IS Hello PDU (IIH) というパケットを送信しています。対向装置からIIHパケットを受信すると,対向装置を隣接ルータとして認識します。
IIHパケットには,パケットの有効時間 (ホールドタイマ) が含まれています。IIHを受信してからホールドタイマの時間 (単位: 秒) の間,隣接ルータを認識しつづけます。通常,ホールドタイマはIIHパケットの送信間隔よりも十分に長いため,IIHパケットを受信しつづける限り,隣接ルータとの接続が途絶えることはありません。
本装置がIS-ISプロトコルを交換するためには,IS-ISインタフェースが以下の条件を満たす必要があります。
- 該当インタフェースがOSIパケット送受信をサポートしていること。
- 該当インタフェースのOSIパケット送受信上のMTUが,1492オクテット以上であること。
- 該当インタフェースが,本装置のサポートするプロトコル体系のパケット送受信をサポートしていること。
IIHパケットを受信したときに,対向装置を隣接ルータとして受け入れるためには,以下の条件を満たす必要があります。
- 本装置の該当インタフェースに認証設定がある場合,認証に成功すること。
- 本装置のルーティングサポートプロトコル体系全てを,対向装置がサポートしていること。
- 本装置のサポートプロトコル体系について,対向装置に適切なインタフェースアドレスが存在すること。
IPv4の場合,本装置のインタフェースネットマスクと,対向装置のインタフェースアドレスが一致する必要があります。
IPv6の場合,対向装置にリンクローカルアドレスが存在する必要があります。
- 本装置と対向装置との間で,インタフェースに一致する動作レベルがあること。
例えば,本装置インタフェースがレベル1インタフェース,対向装置インタフェースがレベル2インタフェースである場合,本装置・対向装置間は隣接ルータとして接続できません。
- レベル1の場合には,本装置に設定のエリアアドレスと対向装置に設定のエリアアドレスとの間に,共通するエリアアドレスがあること。
エリアアドレスの異なるルータ間は,レベル1では接続できません。
本装置では,IIHパケット送信間隔,およびIIHパケット送信間隔とホールドタイマの比を設定できます。デフォルトでは,IIHパケット送信間隔は10秒,ホールドタイマ比は3倍です。このとき,ホールドタイマは30秒になります。
ただし,本装置が代表ルータとなっているインタフェースについてだけ,IIHパケット送信間隔に,IIHパケット送信間隔として設定した値をホールドタイマ比で割った値を使用します。この場合,デフォルトでは,IIHパケット送信間隔は3秒,ホールドタイマは9秒になります。
(3) 経路広告
IS-ISへの経路広告の要因と,経路広告情報の詳細を以下に示します。
経路広告情報をLSPに追加する際,プロトコル体系 (IPv4・IPv6) や,広告方式 (ナロウ・ワイド) によって,広告できない情報やメトリック値の切り詰めが発生します。詳細は「表10-3 IS-IS広告方式と経路属性」をご参照ください。
- IS-ISインタフェースのネットワークアドレス (IPv4) およびプレフィックス (IPv6)
IS-ISでは,アップ状態にあるIS-ISインタフェースのネットワークアドレス,およびプレフィックスを,IS-ISインタフェース動作レベルのLSPに追加します。
IS-ISインタフェースのネットワークアドレス・プレフィックス広告時のデフォルト値を次の表に示します。
表10-7 IS-ISインタフェースのネットワークアドレス・プレフィックス広告時のデフォルト値
広告パラメータ デフォルト値 フィルタによる変更 広告する・しない する 不可能 IS-IS経路集約の対象になる・ならない
- レベル1インタフェース
→集約されない
- レベル2インタフェース
→集約されない
- レベル1-2インタフェース
→レベル1は集約されない
レベル2は集約される
不可能 広告先レベル
- レベル1インタフェース
→レベル1
- レベル2インタフェース
→レベル2
- レベル1-2インタフェース
→レベル1とレベル2の両方
不可能 広告
属性経路種別 内部経路 不可能 メトリック種別 インターナルメトリック 不可能 メトリック値 IS-ISインタフェースのメトリック値
(デフォルト: 10)不可能※ ダウン ダウン経路にはならない 不可能 注※ IS-ISインタフェースの該当レベルのメトリックを変更することで,変更可能です。
- IS-ISレベル間経路広告
IS-ISでは,あるレベルで学習した経路を別のレベルへ再広告することができます。
エキスポート・フィルタを設定することにより,レベル間の再広告の有無,および一部の広告パラメータを制御することができます。デフォルトでは,レベル1で学習した経路をレベル2へ再広告します(レベル2で学習した経路はレベル1へ再広告しません)。
なお,IS-ISレベル1経路をレベル1へ再広告することはできません。また,レベル2経路をレベル2へ再広告することもできません。
レベル間経路広告のデフォルト値とエキスポート・フィルタによる変更を,次の表に示します。
表10-8 IS-ISレベル間経路再広告時のデフォルト値とエキスポート・フィルタによる変更
広告パラメータ デフォルト値 フィルタによる変更 再配布をする・しない レベル1経路をレベル2へ再配布する 可能 IS-IS経路集約の対象になる・ならない 再配布経路が集約される 不可能 広告先レベル レベル2
(レベル2が動作していない場合,レベル1)可能(ただし,学習元と同一レベルには広告しない) 広告
属性経路種別 再配布元経路の属性を引き継ぎます メトリック種別を指定した場合,外部経路となります メトリック種別 再配布元経路の属性を引き継ぎます 可能 メトリック値 再配布元経路の属性を引き継ぎます 可能 ダウン
- 再配布元経路がレベル1経路→レベル2経路
- 再配布元経路がレベル2経路→レベル1ダウン経路
不可能 - レベル2からレベル1へのデフォルト経路
レベル1-2ルータで,エリア分割時にレベル1へ広告するデフォルト経路は,LSPヘッダ中のフィールド ’attached bit’により広告されます。経路種別・メトリック種別・メトリック値すべて広告しません。学習時には,内部経路・インターナルメトリック・メトリック値0とみなします。
表10-9 レベル1のデフォルト経路のデフォルト値とエキスポート・フィルタによる変更
広告パラメータ デフォルト値 フィルタによる変更 再配布をする・しない
- レベル1ルータであるか,レベル2ルータである
→しない
- レベル分割を適用していない
→しない
- レベル1-2ルータであり,IS-ISドメインがレベル分割されている
→する
不可能 IS-IS経路集約の対象になる・ならない 集約されない 不可能 広告先レベル レベル1 不可能 広告
属性経路種別 内部経路 不可能 メトリック種別 インターナルメトリック 不可能 メトリック値 0 不可能 ダウン レベル1ダウン経路 不可能 - 他プロトコル経路再配布
エキスポート・フィルタを定義してある場合,フィルタに従い,他プロトコル経路をフィルタで指定したレベルのLSPに追加します。メトリック種別とメトリック値については,エキスポート・フィルタにより変更可能です。付加情報のデフォルト値を次の表に示します。
表10-10 IS-IS経路再配布時のデフォルト値とエキスポート・フィルタによる変更
広告パラメータ デフォルト値 フィルタによる変更 再配布をする・しない しない 可能 IS-IS経路集約の対象になる・ならない フィルタによる再配布経路が集約される 不可能 広告先レベル レベル2
(レベル2が動作していない場合,レベル1)可能(片方または両方) 広告
属性経路種別 外部経路 不可能 メトリック種別 インターナルメトリック 可能 メトリック値
- 再配布元経路にメトリックがない場合
→メトリック10で広告します
- 再配布元経路のメトリックが0である場合
→メトリック10で広告します
- 上記に該当しない場合
→再配布元経路のメトリックを引き継ぎます
可能 ダウン ダウン経路にならない 不可能
(4) 広告経路集約 (サマリー)
IS-ISでは,多数の広告経路を,その経路宛先を包含するひとつのネットワークアドレス・プレフィックスに集約して広告することができます。この機能をサマリーと呼びます。
サマリーするネットワークアドレス・プレフィックスを指定した場合,これに包含される宛先への経路広告は全て削除され,その代わりにサマリーのネットワークアドレス・プレフィックスが広告されます。このとき,付加情報は,集約において最短である経路の付加情報を使用します。経路広告集約時の選択アルゴリズムを次の表に示します。
表10-11 経路集約時の経路属性引き継ぎ元経路選択条件の優先順位
選択条件の
優先順位名前 比較方法 高
↑
↓
低経路種別 内部経路を優先します。 メトリック種別 メトリック種別がインターナルメトリックである経路を選択します。 エクスターナル メトリック時の広告メトリック値 メトリック種別がエクスターナルメトリックである場合,広告メトリックの小さい経路を選択します。 インターナルメトリック値 インターナルメトリックの小さい経路を選択します。
(5) LSPの交換と同期
IS-ISでは,隣接ルータとの間で,互いに所持していないLSPを送信しあいます。新たにLSPを生成または受信した場合,これを全隣接ルータに送信します。これにより,本装置と隣接ルータとの間で,同じLSPの集合を保持するようにします。これをLSPの同期といいます。
LSP同期手順により,本装置のLSPは全ての隣接ルータに送信されます。また,隣接ルータでは,隣接ルータのすべての隣接ルータに本装置のLSPを送信します。隣接ルータの隣接ルータでは,さらにその全隣接ルータにLSPを送信します。この手順により,本装置のLSPは該当レベルドメイン上の全ルータに配布されます。また,そのレベルのドメイン上にある全ルータLSPが本装置に集まります。
point-to-point,およびgeneric topology型のOSIインタフェースでは,LSPの同期を以下の手順で行います。
- 隣接ルータ認識時に,本装置の全LSPのLSPIDを列挙したパケット (CSNP: Complete Sequence Numbers PDU) を送信します。
隣接ルータからも,隣接ルータの全LSPのLSPIDを列挙したCSNPが送信されてきます。
- 隣接ルータのCSNP中に本装置が保持していないLSPのLSPIDが含まれている場合,LSP更新を示すパケット (PSNP: Partial Sequence Numbers PDU) を使用して送信します。このとき,該当LSPのLSPIDについて,LSPのバージョンを0として送信します。
- 隣接ルータがPSNPを受信すると,本装置が所持しているLSPが,隣接ルータの所持しているLSPよりもバージョンが古い (小さい) ことがわかります。これに基づき,隣接ルータは該当LSPを送信します。
- 本装置がLSPを受信し,これをLSPデータベースに保持します。該当隣接ルータ以外にも隣接ルータが存在する場合,受信したLSPのLSPIDとそのバージョンを,PSNPでほかの隣接ルータへ送信します。
broadcast型のOSIインタフェースでは,LSPの同期を以下の手順で行います。
- まず,インタフェース上にある隣接ルータと本装置の中から,代表ルータ (DIS: Designated IS) を1台選択します。
- 代表ルータは,定期的に代表ルータの保持する全LSPのLSPIDをCSNPによりブロードキャストで送信します。
- CSNPを受信したルータにおいてCSNPに含まれるLSPIDを保持していない場合,そのLSPIDを,LSPのバージョンを0としてPSNPでブロードキャストで送信します。
- CSNPを受信したルータにおいてCSNPに含まれるLSPIDのバージョンの方が保持しているLSPIDのバージョンよりも新しい場合,そのLSPIDを,受信ルータの保持するLSPバージョンでPSNPでブロードキャストで送信します。
- CSNPまたはPSNPを受信したルータにおいて,含まれているLSPIDのバージョンが保持しているバージョンよりも古い場合,該当LSPをブロードキャストで送信します。
- LSPを受信した場合,これが保持するLSPよりも新しければ,LSPデータベースに保持します。受信ルータに他にIS-ISインタフェースが存在する場合,ほかのインタフェース上にある隣接ルータへ,受信したLSPのLSPIDとそのバージョンを,PSNPでほかの隣接ルータへ送信します。
(6) 経路計算
IS-ISでは,LSPデータベース上のLSPが更新されたときに経路計算を行います。経路計算は,まずレベルごとに別個に行います。経路計算の手順は以下のとおりです。
- LSPデータベースから隣接ルータ情報を抜き出し,ドメイン上のIS-ISルータと隣接関係からなるネットワーク構成図 (トポロジ) を書き出します。
- 書き出したネットワーク構成図と,そこに書いてあるルータ間のメトリックから,ネットワーク上の全ルータへの最短経路を計算します。短いとは,メトリックが小さいことを指します。最短経路が複数ある場合,そのルータへのネクストホップは複数になります (マルチパス)。
- 次に,最短経路が求まった全ルータについて,そのルータがLSPに広告している全経路を取り出します。
- 同じ経路を広告しているルータが複数ある場合,「10.2.3 経路選択アルゴリズム」に記述のアルゴリズムに従い,最短経路を選び出します。最短経路を広告しているルータが複数ある場合,最短経路はマルチパスになります。
経路計算によりレベル別経路を計算後,レベル別の経路を統合して,以下の規則によってIS-ISとしての最短経路を選択します。
- ある宛先への経路が一方のレベルにしかない場合,この経路を採用します。
- ある宛先への経路が両方のレベルにある場合,「10.2.3 経路選択アルゴリズム」に記述のアルゴリズムに従い,最短経路を選び出します。自ルータが広告している経路が最短経路である場合,経路は学習しません。必ず長短が決定するので,レベル1とレベル2との間でマルチパスになることはありません。
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