解説書 Vol.2
階層化シェーパは,次の図に示すとおり,Tag-VLAN連携回線などのユーザごとに帯域を確保できます。回線が輻輳状態でも,ユーザごとに割り当てた帯域を保証できます。さらに,ユーザ内のアプリケーション種別ごとに優先制御および帯域制御を行うことができます。
階層化シェーパは,次に示す三つの制御ブロックから構成されます。
- ポート帯域制御:回線全体の送信帯域を回線速度以下にシェーピングする
- アグリゲートキュー帯域制御:ユーザごとに帯域制御を実行する
- スケジューリング:ユーザ単位で保有する四つのキューの内,どのキューにあるパケットを次に送信するかを決定する
ポート帯域制御は,「1.8.1 レガシーシェーパ (1) ポート帯域制御」と同様の機能です。次に,アグリゲートキュー帯域制御とスケジューリングを説明します。
- <この項の構成>
- (1) アグリゲートキュー帯域制御
- (2) スケジューリング
- (3) ユーザ優先度書き換え機能
- (4) キュー長指定機能
(a) 制御方式
アグリゲートキュー帯域制御には,RLQ(Rate Limited Queueing)方式とRGQ(Rate Guaranteed Queueing)方式の2種類の制御方式があります。
RLQはユーザごとに固定帯域を割り当てる方式です。RLQの概念を次の図に示します。この図は,左側に階層化シェーパの構造図を,右側に回線内におけるトラフィックの状態変化を示しています。アグリゲートキュー帯域制御は四つのキューを保持しています。スケジューリングを実施した後のトラフィックをシェーピングします。
この図に示すように,VLAN1はVLAN1023とdefaultのトラフィックの影響を受けず,常に帯域を確保できます。ただし,回線内で使用していない帯域(余剰帯域)があっても,その帯域をほかのユーザが使用することはできません。また,ユーザごとに割り当てた帯域の合計は,ポート帯域制御の帯域値以内を満たす必要があります。
RGQはユーザごとに最低帯域を保証する方式です。回線に余剰帯域がある場合,ユーザごとに設定した最大帯域まで余剰帯域を割り当てることができます。RGQの概念を次の図に示します。
余剰帯域は,デフォルトではユーザ間で均等に分配します。また,設定によってユーザ単位に余剰帯域の分配比率(重み)を決めることができます。分配比率に応じた余剰帯域の計算例を次の表に示します。この表ではポート帯域制御によって回線帯域を900Mbit/sにシェーピングする場合を想定します。計算を簡単にするため,ユーザ数を三つにします。
割り当てユーザ 入力帯域
(Mbit/s)最低帯域
(Mbit/s)最大帯域
(Mbit/s)余剰帯域
分配比率余剰帯域※
(Mbit/s)実際の
送信帯域
(Mbit/s)VLAN1 400 200 900 3 150 350 VLAN2 350 200 900 2 100 300 VLAN1023 250 200 900 1 50 250 注※ 回線内の余剰帯域=回線帯域−各ユーザごとの最低帯域の合計
=900−(200+200+200)=300(Mbit/s)
VLAN1の余剰帯域=300×(3÷(3+2+1))=150(Mbit/s)
VLAN2の余剰帯域=300×(2÷(3+2+1))=100(Mbit/s)
VLAN1023の余剰帯域=300×(1÷(3+2+1))=50(Mbit/s)
(b) アグリゲートキュー帯域制御の仕様
アグリゲートキュー帯域制御の仕様を次の表に示します。
項目 仕様 内容 アグリゲートキュー数 16384/装置 − 1024/回線 デフォルトのアグリゲートキューを含みます。 RLQ 最大帯域 240kbit/s〜1Gbit/s 1kbit/s単位で指定できます。 RGQ 最大帯域 最低帯域 余剰帯域分配方式 ユーザ間均等(デフォルト) − 重み 1〜50 ユーザごとに重みに応じて余剰帯域を分配します。 デフォルトのアグリゲートキュー 1/回線 フロー検出条件で検出されないパケットが割り当てられるキュー。 (凡例) −:該当しない
(2) スケジューリング
スケジューリングは,どのキューにあるパケットを次に送信するかを決めます。スケジューリングの概念を次の図に示します。この図は,アグリゲートキュー帯域制御としてRGQ方式を使用し,スケジューリングとしてPQ+LLQ+2WFQ方式を使用した帯域制御の様子を示しています。合わせて,VLAN1内の帯域制御の様子を示します。本装置の特徴であるPQ+LLQ+2WFQ方式の動作を,次の図を使って説明します。なお,スケジューリングは,PQ+LLQ+2WFQのほかに3種類の方式がありますが,それらは「表1-33 スケジューリングの動作仕様」にまとめて説明します。
図1-24 スケジューリングの概念
PQ+LLQ+2WFQ方式は,PQ(Priority Queueing)とLLQ(Low Latency Queueing),二つのWFQ(Weighted Fair Queueing)から構成されます。PQは常に最優先でパケットを出力します。PQの動作は,「図1-24 スケジューリングの概念」のユーザ内帯域制御に示すように,ユーザごとの帯域が変動しても,優先的に出力できる点が特徴です。
LLQは,PQが動作していないときの帯域に対して,最低保証帯域の範囲内でWFQのキューより優先的にパケットを出力します。また,RGQ方式のようにユーザ単位に余剰帯域が割り当てられると,その余剰に応じて確保できる帯域が変動するという特徴があります。このキューをVLLQ(Variable LLQ)と呼びます。
最後に二つのWFQは,VLLQが使用しない残りの帯域を,設定した重みに応じて使用します。
機能名 概念図 動作説明 適用例 完全優先 ![]()
完全優先制御。複数のキューにパケットが存在する場合,優先度の高いキューから常にパケットを送信します。 トラフィックの優先順を完全に遵守する場合 4WFQ ![]()
重み付き均等保証。ポート当たり4キュー。帯域を,設定したw:x:y:zの比に応じてQ#1,Q#2,Q#3,Q#4からパケットを送信します。 データ系トラフィックだけの帯域制御 VLLQ+3WFQ ![]()
最優先キュー付き,重み付き均等保証。ポート当たり4キュー。最優先キューがキュー4(左図Q#4)と,重み付き帯域均等キューが三つ(左図Q#1,Q#2,Q#3)。
Q#4にパケットが存在する場合,最低保証帯域の範囲内でパケットを送信します(VLLQ)。
Q#4が使用していない残りの帯域を設定したx:y:zの比に応じてQ#1,Q#2,Q#3からパケットを送信します。なお,この方式でVLLQの最低保証帯域を100%に設定すると,レガシーシェーパのLLQ+3WFQと同等になります。VLLQに映像,WFQにデータ系トラフィック 2LLQ+2WFQ
(PQ+VLLQ+2WFQ)![]()
最優先キュー付き,重み付き均等保証。ポート当たり4キュー。最優先キューが二つ(左図Q#3,Q#4),重み付き帯域均等キューが二つ(左図Q#1,Q#2)。
Q#4は,常に最優先で出力します(PQ)。Q#3は,Q#4が使用していない残りの帯域を使用して,最低保証帯域の範囲内で優先的にパケットを出力します(VLLQ)。
Q#1とQ#2は,Q#3とQ#4が使用していない残りの帯域を,設定したx:yの比に応じてパケットを送信します。PQに音声,VLLQに映像,WFQにデータ系トラフィック スケジューリングの仕様を次の表に示します。
項目 仕様 内容 帯域制御対象パケット すべてのパケット − キュー数 4 − キュー長 0〜4000※ 設定によって変更できます。 フレーム長 84〜2056B シェーピング対象のフレーム長。フレーム間ギャップ,プリアンブル,FCSを含みます。 4WFQ キュー1〜4 1〜100% 1%単位で指定します。キュー1〜4の重みであるw,x,y,zについて次の条件を満たすように設定してください。
w+x+y+z≦100
w≦x≦y≦zVLLQ+3WFQ キュー4(VLLQ) 10〜100% 最低保証帯域に対し10%単位の比率で指定します。 キュー1〜3 1〜100% 1%単位で指定。キュー1〜3の重みであるx,y,zについて次の条件を満たすように設定してください。
x+y+z≦100
x≦y≦z2LLQ+2WFQ キュー4 PQ − 完全優先制御を指定 キュー3(VLLQ) 10〜100% 最低保証帯域に対し10%単位の比率で指定します。 キュー1〜2 1〜100% 1%単位で指定します。キュー1〜2の重みであるx,yについて次の条件を満たすように設定してください。
x+y≦100
x≦y(凡例) −:該当なし
注※ 各キューにはキュー長が未設定時はデフォルト値が割り当てられます。送信キューごとのデフォルトキュー長を次の表に示します。
送信キュー番号 デフォルトキュー長 1 120 2 100 3 80 4 50 次に,ユーザ単位内の各キューが確保する帯域値の変化を具体的に説明します。説明は,次の表に示すキューの設定値を例として取り上げます。
キュー種別 設定値 VLLQ 90% WFQ2 9% WFQ1 1% なお,説明を簡単にするため,ユーザ単位に割り当てられた帯域は固定値50Mbit/sとします。パケットのトラフィックパターンを2種類に分けて,各キューが確保する帯域値の相違を次に示します。
- パターン(a)
図1-25 各キューが確保する帯域値の相違(二つのWFQだけ送信)
WFQが動作するキューだけパケットの入力があるトラフィックパターンです。二つのWFQは,ユーザ単位に割り当てられた帯域(ユーザ帯域と呼ぶ)である50Mbit/sを設定した重みに応じて分け合います。例えばWFQ2が確保する帯域は,次の計算で求まります。
WFQ1も同様の計算によって,5Mbit/sの帯域を確保します。
WFQ2=ユーザ帯域×WFQ2の重み÷(WFQ1の重み+WFQ2の重み) =50M×9÷(1+9) =45Mbit/s
- パターン(b)
図1-26 各キューが確保する帯域値の相違(VLLQと二つのWFQが送信)
VLLQとWFQが動作するキューに対してパケットの入力があるトラフィックパターンです。まず優先度の高いVLLQへ帯域を割り当て,残りの帯域をWFQで分け合います。VLLQは,ユーザ帯域50Mbit/sのうち,最低保証帯域の重み90%分,つまり45Mbit/sの帯域を確保します。一方,二つのWFQは,VLLQが使用しない残りの帯域を設定した重みに応じて分け合います。WFQ2が確保する帯域は,次の計算で求まります。
WFQ1もWFQ2と同様の計算によって,0.5Mbit/sの帯域を確保します。
WFQ2=(ユーザ帯域−VLLQの帯域)×WFQ2の重み÷(WFQ1の重み+WFQ2の重み) =(50M−45M)×9÷(1+9) =4.5Mbit/s
この機能は,キューイングしたパケットを出力するときに,パケットのユーザ優先度を書き換えます。この機能には2種類のモードがあり,装置で一つのモードを選択します。ユーザ優先度書き換え機能の仕様を次の表に示します。なお,デフォルトは,ユーザ優先度を書き換えません。
モード 仕様 ユーザ優先度保存
(デフォルト)ユーザ優先度の書き換えを行いません。マーカー機能によってユーザ優先度書き換えた場合,書き換えた値がそのまま出力されます。このモードが装置としてのデフォルトとなります。 ユーザ優先度クリア ユーザ優先度をデフォルト値0に書き換えます。 この機能は,マーカーを実行した後に動作します。そのためモードとしてユーザ優先度クリアまたはユーザ優先度書き換えを選択した場合,マーカーで書き換えたユーザ優先度が,再度書き換わります。
この機能は,「CSW側受信キュー(from_CSWキュー)」および「NIF側送信キュー(ディストリビューションキュー)」のキュー長(バッファ)を任意の値に設定できます。キュー長を変更することによって,当該回線から送信されるバーストトラフィックに対するキュー溢れを回避することができます。
なお本機能は,NE1GSHP-8Sだけ設定可能です。
キュー長指定が対象となるキューの位置付けを次の図に,設定可能なキュー長を「表1-38 設定可能なキュー長」に示します。
図1-27 対象となるキューの位置付け
表1-38 設定可能なキュー長
キュー種別 指定可能キュー長 条件 CSW受信側キュー
(from_CSWキュー)128 / 256 / 512 / 1024 受信キュー数が四つあるため,4キューのサイズ合計が1536を超えないこと NIF側送信キュー
(ディストリビューションキュー)2048 / 4096 / 8192 / 16384 送信キュー数が四つあるため,4キューのサイズ合計が32768を超えないこと
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