コンフィグレーションガイド Vol.3
IPv4マルチキャストでは,スタック構成による運用でマスタスイッチに障害が発生してバックアップスイッチが新しいマスタスイッチになった場合,PIM-SMおよびPIM-SSMのマルチキャスト通信を継続する機能をサポートしています。本機能は,コンフィグレーションコマンドip pim nonstop-forwardingを設定すると有効になります。
本機能では,マスタスイッチに障害が発生する前に最短パスに切り替わったマルチキャスト中継エントリを対象にしています。そのため,本機能を使用しても,PIM-SMプロトコルの通常処理(ランデブーポイント経由,最短パス切り替えなど)でのパケットロスは発生します。
マスタスイッチに障害が発生したあと,再学習時間(330秒)内は障害発生前に設定したハードウェアエントリでマルチキャスト通信を継続します。再学習時間内に学習しなかったマルチキャスト中継エントリは,再学習時間終了時に削除します。なお,再学習時間の開始時と終了時には運用メッセージを出力します。
本機能使用時,VRFのインタフェースでIPv4マルチキャストを使用している場合は,IPv4マルチキャストを使用したVRFの全インタフェースで本機能が有効になります。
なお,障害発生後のIPv4マルチキャスト中継エントリの再学習状況は,次に示す運用コマンドで確認できます。
- show ip mcache (show ip pim mcache)
- show ip mroute
- <この項の構成>
- (1) マルチキャスト通信を継続するための前提条件
- (2) マルチキャスト通信継続時のタイマ仕様
- (3) 再学習時間内の上流インタフェースの切り替え
- (4) コンフィグレーションコマンド変更時の中継動作
- (5) 注意事項
(1) マルチキャスト通信を継続するための前提条件
(a) ユニキャストルーティングのグレースフル・リスタートの使用
マスタスイッチに障害が発生したときにマルチキャスト通信を継続するためには,ユニキャストルーティングプロトコルのグレースフル・リスタートを有効にしてください。グレースフル・リスタートが無効な場合,障害発生後に上流のユニキャスト経路が安定しないため,マルチキャスト通信のパケットロスが多発することがあります。
(b) Generation IDオプションをサポートしている装置の設置
本装置の近隣ルータには,Generation IDオプションをサポート(RFC4601およびRFC5059に準拠)している装置を設置してください。近隣ルータがGeneration IDオプションをサポートしていない場合,障害発生後にPIMメッセージの送受信が遅延するため,再学習時間内に再学習が完了しないことがあります。なお,Generation IDオプションについては,「15.4.2 IPv4 PIM-SM」の「(3) 近隣検出」を参照してください。
(2) マルチキャスト通信継続時のタイマ仕様
本機能を有効にした場合,次に示すタイマ仕様を変更します。
- Join/Prune-Holdtime
- 上流方向にPIM-Join/Pruneメッセージを送信する装置で本機能を使用した場合,Join/Prune-Holdtimeには次に示す値のうち,大きい方の値を設定して送信します。
- Join/Prune-Period(30〜3600秒)×3.5
- Join/Prune-Period(30〜3600秒)+再学習時間(330秒固定)
- PIM-Candidate-RP-AdvertisementメッセージのRP-Holdtime
- ランデブーポイント候補で本機能を使用した場合,PIM-Candidate-RP-AdvertisementメッセージのRP-Holdtimeを290秒に設定して広告します。
- PIM-BootstrapメッセージのRP-Holdtime
- ブートストラップルータで本機能を使用した場合,PIM-Candidate-RP-Advertisementメッセージによって報告されたRP-Holdtimeが165秒未満の場合は,PIM-BootstrapメッセージのRP-Holdtimeを165秒に設定して送信します(本機能未使用時はPIM-Candidate-RP-Advertisementメッセージによって報告されたRP-Holdtimeを設定)。
(3) 再学習時間内の上流インタフェースの切り替え
再学習時間内にマルチキャスト中継エントリの上流インタフェースのユニキャスト経路が変更された場合,通常と同様に,該当するエントリの上流インタフェースもユニキャスト経路に従って変更します。このとき,一時的にパケットロスが発生します。
このユニキャスト経路の変更を抑止するには,送信元へのユニキャスト経路をスタティック経路で設定するか,コンフィグレーションコマンドip pim nonstop-forwardingでkeep-incomingパラメータを設定してください。また,ユニキャスト経路の変更によって上流インタフェースが該当するエントリの下流インタフェースに変更された場合,この下流インタフェースへの中継を停止します。
(4) コンフィグレーションコマンド変更時の中継動作
(a) PIM-SSMで使用するアドレス範囲の変更
再学習時間内にコンフィグレーションコマンドでPIM-SSMで使用するアドレス範囲を変更すると,再学習時間が終了します。この場合,再学習時間内に未学習のマルチキャスト中継エントリの通信を停止します。
(b) VRFのIPv4マルチキャストの設定および削除
再学習時間内にコンフィグレーションコマンドでVRFのIPv4マルチキャストを設定または削除すると,再学習時間が終了します。この場合,残りのすべてのVRFで,再学習時間内に未学習のマルチキャスト中継エントリの通信を停止します。
(5) 注意事項
- 再学習時間の終了時,マルチキャスト中継エントリの無通信を監視しないで,未学習のマルチキャスト中継エントリを削除します。そのため,コンフィグレーションコマンドip pim keep-alive-timeで無通信時のエントリ保持時間を再学習時間より長く設定していても,再学習時間の終了時に該当するマルチキャスト中継エントリは削除されます。
- マルチキャストエクストラネットのマルチキャスト中継エントリは,本機能の対象外です。そのため,マスタスイッチに障害が発生すると該当するエントリのマルチキャスト通信を停止します。障害発生後,該当するエントリを再学習すると通信を再開します。
- マスタスイッチに障害が発生する直前にマルチキャストパケットの二重中継が発生すると,二重中継の解消に時間が掛かることがあります。この場合,障害発生後にマルチキャスト経路情報を再学習すると,PIM-Assertメッセージによって二重中継が解消されます。
- 本機能とコンフィグレーションコマンドip pim multiple-negative-cacheを同時に設定した場合,ip pim multiple-negative-cacheコマンドの設定は無効になります。この場合,運用コマンドshow ip mcache (show ip pim mcache)で警告メッセージが表示されます。
- マスタスイッチを切り替えた場合,新しいマスタスイッチは,再学習が完了するまで切り替え中の状態となります(運用コマンドshow switchでスイッチ状態に(Switchover)を表示します)。
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