29.5.4 ネットワーク構成での注意事項
IPv6マルチキャストはサーバ(送信者)から各グループ(受信者)にデータを配信する1(送信者):N(受信者)の片方向通信に適します。IPv6マルチキャストの推奨ネットワーク構成,注意事項を次に示します。
(1) IPv6 PIM-SMおよびIPv6 PIM-SSM共通
(a) 適用構成
IPv6 PIM-SMまたはIPv6 PIM-SSM(以下,PIMと略す)では送信者から受信者に至る経路上のすべてのルータでPIMの設定が必要となります。そのため,途中でPIMを設定していないルータがあると,マルチキャストパケットの中継が行えません。隣接ルータがPIMを設定していない場合には,コンフィグレーションコマンドipv6 pim directを設定するとパケットの中継ができるようになります。
「図29‒22 コンフィグレーションコマンドipv6 pim directを設定する場合の適応例」はコンフィグレーションコマンドipv6 pim directを設定する場合の適用例です。ルータAと本装置は異なるマルチキャストドメインに属しているため,これらの間にはPIMが設定されていません。一方,ドメインXにいる送信元からドメインYにいる受信者にマルチキャストデータを送信したいという要求があります。ルータAと本装置の間でPIMが動作していないので,送信者Sから送られたマルチキャストデータは本装置にて廃棄されます。ここで本装置のインタフェースαにコンフィグレーションコマンドipv6 pim directで送信者Sを設定すると,ドメインY内へのマルチキャストパケットの転送が行われるようになります。
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コンフィグレーションコマンドipv6 pim directの設定は上図のような構成に適用されますので,これ以外の構成ではマルチキャストパケットを中継できなくなるおそれがあります。
(b) 注意が必要な構成
次に示す構成でIPv6 PIM-SMまたはIPv6 PIM-SSMを使用する場合,注意が必要です。
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次の図に示す構成のようにホストと直接接続するルータが同一ネットワーク上に複数存在するインタフェースには,必ずPIM-SMを動作させてください。
同一ネットワーク上に複数のルータが存在するインタフェースにPIM-SMを動作させずにMLDだけを動作させた場合は,マルチキャストデータが二重中継される場合があります。
図29‒23 注意が必要な構成(複数ルータとホストの接続) -
次の図に示す構成のように本装置Cが本装置Aと本装置BにVRRPを設定した仮想インタフェースをゲートウェイとするスタティックルートを設定した環境では,PIMプロトコルが上流ルータを検出できず,マルチキャスト通信ができません(PIM-SSMも同じです)。
この構成でマルチキャスト通信する場合は,本装置CにランデブーポイントアドレスとBSRアドレスとマルチキャストデータ送信元アドレスへのゲートウェイアドレスを本装置Aまたは本装置Bの実アドレスとするスタティックルートを設定する必要があります。
図29‒24 注意が必要な構成(VRRPを設定した場合) -
異なるドメイン上のルータとPIM-SM/PIM-SSMプロトコルを使用しないでマルチキャスト中継をする場合,そのルータとのインタフェースをPIM非接続インタフェースと呼びます。
次の図に示す構成のように異なるドメイン上のサーバSから送信されるマルチキャストパケットをPIM非接続インタフェースを経由してマルチキャスト中継する場合,次の設定が必要です。
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本装置の下流ルータ(ルータ2)に,サーバSへのユニキャスト経路を設定する。
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本装置のPIM非接続インタフェースに,コンフィグレーションコマンドipv6 pim directを設定する。
図29‒25 注意が必要な構成(PIM非接続インタフェース経由の中継)
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(2) IPv6 PIM-SM
(a) 推奨構成
IPv6 PIM-SMによるネットワーク構成に当たっては,ツリー型ネットワーク構成および冗長経路が存在するネットワーク構成をお勧めします。ただし,ランデブーポイントの配置には十分注意してください。IPv6 PIM-SMのモード切り替えによるIPv6マルチキャスト送信パス変化処理の負荷を軽減するため,ランデブーポイントは送信者の直近に置くことをお勧めします。
IPv6 PIM-SM推奨ネットワーク構成を次の図に示します。
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(b) 不適応な構成
次に示す構成でIPv6 PIM-SMは使用しないでください。
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送信者とランデブーポイントの間に受信者が存在する構成
次に示す構成でサーバからグループ1のIPv6マルチキャスト通信を行う場合,ランデブーポイント経由の中継が効率よく行えません。
図29‒27 不適応な構成(送信者とランデブーポイントの間に受信者が存在する場合) -
送信者と同一回線上に複数のIPv6 PIM-SMルータが動作する構成
次に示す構成でサーバがIPv6マルチキャストデータを送信した場合,DRでないIPv6 PIM-SMルータに不要な負荷がかかり,本装置の他機能に大きく影響を与えることがあります。本装置AとBとで回線を分けてご使用ください。
図29‒28 不適応な構成(複数ルータと送信者の接続) -
IPv6マルチキャストグループ(受信者)と同一回線上に複数のIPv6 PIM-SMルータを動作させ,ランデブーポイントに接続しないIPv6 PIM-SMルータが存在する構成
次に示す構成でグループ1宛てのIPv6マルチキャスト通信をした場合,送信者とグループ1間で最短パスが確立しない場合があります。
本装置Aおよび本装置Bはそれぞれ本装置Bおよび本装置Aを通らないでランデブーポイントと接続するようにしてください。
図29‒29 不適応な構成(ランデブーポイントに接続しないルータが存在する場合) -
受信者不在の構成
次に示す構成でサーバがIPv6マルチキャストデータを大量に送信した場合,本装置にはデータ廃棄処理で負荷がかかるため,本装置の他機能に大きく影響を与えることがあります。そのため,IPv6マルチキャスト利用時は受信者を一つは設置して利用してください。
図29‒30 不適応な構成(受信者不在の構成)
(3) IPv6 PIM-SSM
(a) 注意が必要な構成
次に示す構成でIPv6 PIM-SSMを使用する場合注意が必要です。
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IPv6マルチキャストグループ(受信者)と同一回線上に複数のIPv6 PIM-SSMルータが動作する構成
次に示す構成で,MLDv1またはMLDv2(EXCLUDEモード)でPIM-SSMを動作させる場合は,同一回線上のすべてのルータにコンフィグレーションコマンドipv6 pim ssmおよびipv6 mld ssm-map staticを設定してください。
図29‒31 注意が必要な構成(複数ルータとホストの接続)
(b) 端末側に複数のアドレスを設定したときの注意事項
SSM通信時,データ送信を行う端末に複数のIPv6アドレスを付与して運用する場合,送信されるデータの送信元アドレスが本装置にコンフィグレーションコマンドipv6 mld ssm-map staticで設定した送信元アドレス情報と一致するようにしてください。特に,RAなどのアドレス自動設定機能を使用した場合は,端末側が自動設定されたアドレスを使用して通信を行う場合があります。