16.1.3 マスタの選出方法
- 〈この項の構成〉
(1) 優先度
複数の仮想ルータの中からマスタの仮想ルータを選出するために,VRRPでは優先度を使用します。この優先度は仮想ルータに設定できます。設定できる値は1から255までの数値で,デフォルトは100です。この数値が大きいほど優先度は高くなります。インタフェースに付与されているIPアドレスと仮想ルータのIPアドレスが等しい(IPアドレスの所有者)場合,最も優先度が高い255に自動的に設定されます。マスタの仮想ルータの選出を次の図に示します。
この図の場合,優先度が最も高い仮想ルータAがマスタになります。仮想ルータAがダウンした場合は,次に優先度の高い仮想ルータBがマスタへと変化します。仮想ルータAと仮想ルータBの両方がダウンした場合にだけ仮想ルータCがマスタになります。
マスタになる装置を明確にするため,同じイーサネット上の同じ仮想ルータIDの仮想ルータには,異なる優先度を設定してください。優先度の同じ仮想ルータが存在する場合は,どちらがマスタになるか不定のため,動作が期待どおりにならないおそれがあります。
(2) 自動切り戻しおよび自動切り戻しの抑止
VRRPでは,優先度の高いバックアップの仮想ルータが,自ルータよりも優先度の低いマスタの仮想ルータを検出すると,自動的にマスタへ状態を変化させます。逆に,マスタの仮想ルータが,自ルータより優先度の高い仮想ルータの存在を検出したときは自動的にバックアップへと状態を変化させます。
「図16‒4 マスタの選出」の構成を例にしてみると,仮想ルータAと仮想ルータBがダウンし仮想ルータCがマスタになっている状態から,仮想ルータBが復旧すると,仮想ルータCよりも優先度の高い仮想ルータBがマスタに変化し,仮想ルータCがマスタからバックアップへ状態を変化させることになります。
この自動切り戻しを抑止する設定ができます。切り戻し抑止には,次の2とおりの方法があります。
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PREEMPTモードによる抑止
自動切り戻しさせたくない場合には,コンフィグレーションコマンドno vrrp preemptでPREEMPTモードをOFFに設定してください。PREEMPTモードをOFFに設定すれば,バックアップの仮想ルータが自ルータよりも優先度の低い仮想ルータがマスタになっていることを検出しても,状態をマスタへ変化させることはありません。
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抑止タイマによる抑止
自動切り戻しの開始を任意の時間遅延させたい場合には,コンフィグレーションコマンドvrrp preempt delayで抑止タイマを設定してください。本タイマ値は,自動切り戻し要因を検出してから自動切り戻し処理の開始時間を遅らせるものであり,状態が完全に切り変わるまでには,設定した時間プラス数秒の時間を要します。
PREEMPTモードを設定した場合も抑止タイマを設定した場合も,対象となる仮想ルータがIPアドレスの所有者(優先度255)の場合は,切り戻しの抑止は有効になりません。
マスタの仮想ルータが故障などによって運用不可状態になったことを検出し,かつ残った仮想ルータの中で自ルータの優先度が最も高いことを検出した場合には,切り戻し抑止中であってもマスタに遷移します。
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手動による切り戻し
自動切り戻し抑止中状態でも,運用コマンドswap vrrpによって仮想ルータの切り戻し処理を起動できます。
自動切り戻し抑止によってバックアップ状態に留まっている装置に対して本コマンドを指定すると,コマンド実行時にマスタの仮想ルータよりコマンドを指定したバックアップの仮想ルータの優先度が高い場合は,コマンドを指定した仮想ルータがマスタ状態に遷移します。