コンフィグレーションガイド Vol.3


26.5.4 ネットワーク構成での注意事項

マルチキャストは送信者から各グループメンバ(受信者)にマルチキャストパケットを配信する1(送信者):N(受信者)の片方向通信に適します。マルチキャストの適応ネットワーク構成,注意事項を次に示します。

〈この項の構成〉

(1) IPv6 PIM-SM/PIM-SSM共通

(a) 隣接ルータがPIM-SM/PIM-SSMを設定していない場合の構成

PIM-SMまたはPIM-SSM(以下,PIMと略します)では送信者から受信者に至る経路上のすべてのルータでPIMの設定が必要となります。そのため,途中でPIMを設定していないルータがあると,マルチキャストパケットが中継できません。隣接ルータがPIMを設定していない場合には,マルチキャストサーバ仮想接続機能を使用するとマルチキャストパケットの中継ができるようになります。マルチキャストサーバ仮想接続機能を使用する場合の適応例を次の図に示します。

図26‒25 マルチキャストサーバ仮想接続機能を使用する場合の適応例

[図データ]

ルータAと本装置は異なるマルチキャストドメインに属しているため,これらの間にはPIMが設定されていません。一方,ドメインXにいる送信者からドメインYにいる受信者にマルチキャストパケットを送信したいという要求があります。ルータAと本装置の間でPIMが動作していないので,送信者Sから送られたマルチキャストパケットは本装置で廃棄されます。ここで本装置のインタフェースαにマルチキャストサーバ仮想接続機能で送信者Sを設定すると,ドメインY内へマルチキャストパケットを転送できるようになります。ただし,静的グループ参加機能などを使用して,ルータAが本装置のインタフェースαに対してマルチキャストパケットを送信し続ける設定が必要です。

(b) 注意が必要な構成

次に示す構成でPIM-SMまたはPIM-SSMを使用する場合,注意が必要です。

  • 次の図に示す構成のように,受信者と直接接続するルータが同一ネットワーク上に複数存在するインタフェースでは,必ずPIM-SMを動作させてください。

    同一ネットワーク上に複数のルータが存在するインタフェースでPIM-SMを動作させないでMLDだけを動作させた場合,マルチキャストパケットが二重に中継されることがあります。

    図26‒26 PIM-SM/PIM-SSMで注意が必要な構成(複数ルータと受信者の接続)

    [図データ]

  • 次の図に示す構成のように,本装置Cが本装置Aと本装置BにVRRPを設定した仮想インタフェースをゲートウェイとするスタティック経路を設定した環境では,PIM-SMおよびPIM-SSMが上流ルータを検出できないため,マルチキャスト通信ができません。

    この構成でマルチキャスト通信をする場合は,本装置Cにランデブーポイントアドレス,ブートストラップルータアドレス,およびマルチキャスト送信者アドレスへのゲートウェイアドレスを本装置Aまたは本装置Bの実アドレスとするスタティック経路を設定する必要があります。

    図26‒27 PIM-SM/PIM-SSMで注意が必要な構成(VRRPを設定した場合)

    [図データ]

  • 異なるドメイン上のルータとPIM-SMおよびPIM-SSMプロトコルを使用しないでマルチキャスト中継をする場合,そのルータとのインタフェースをPIM非接続インタフェースと呼びます。

    次の図に示す構成のように,異なるドメイン上の送信者Sから送信されるマルチキャストパケットをPIM非接続インタフェースを経由してマルチキャスト中継する場合,次の設定が必要です。

    • 本装置の下流ルータ(ルータ2)に,送信者Sへのユニキャスト経路を設定する。

    • 本装置のPIM非接続インタフェースに,マルチキャストサーバ仮想接続機能を設定する。

      図26‒28 PIM-SM/PIM-SSMで注意が必要な構成(PIM非接続インタフェース経由の中継)

      [図データ]

(2) IPv6 PIM-SM

(a) 推奨構成

PIM-SMでは,ツリー型ネットワーク構成および冗長経路が存在するネットワーク構成を推奨します。ただし,ランデブーポイントの配置には十分注意してください。PIM-SM推奨ネットワーク構成を次の図に示します。

図26‒29 PIM-SM推奨ネットワーク構成

[図データ]

[図データ]

(b) 注意が必要な構成

送信者と直接接続するルータが同一ネットワーク上に2台以上存在する構成でPIM-SMを使用する場合は注意が必要です。次の図に示す構成でどれかをランデブーポイントとする場合は,ランデブーポイントがDR(Designated Router)になるようにしてください。

ランデブーポイント以外をDRにした場合,DRからランデブーポイントに対してPIM Registerメッセージを送信するため,本装置A,Bに負荷が掛かります。また,PIM Registerメッセージ中のマルチキャストパケットを中継するときに,ランデブーポイントでパケットロスが発生するおそれがあります。なお,ランデブーポイントをDRにした場合は,PIM RegisterメッセージによるIPカプセル化は行いません。

図26‒30 PIM-SMで注意が必要な構成(複数ルータと送信者の接続)

[図データ]

(c) 不適応な構成

送信者とランデブーポイントの間に受信者が存在する構成でPIM-SMは使用しないでください。次の図に示す構成で送信者からマルチキャストグループ1へのマルチキャスト通信をする場合,ランデブーポイント経由の中継が効率良く行えません。

図26‒31 PIM-SMで不適応な構成(送信者とランデブーポイントの間に受信者が存在する場合)

[図データ]

(3) IPv6 PIM-SSM

(a) 注意が必要な構成

次に示す構成でPIM-SSMを使用する場合,注意が必要です。

  • マルチキャスト受信者と同一回線上に複数のPIM-SSMルータが動作する構成でPIM-SSMを使用する場合は注意が必要です。次の図に示す構成でMLD PIM-SSM連携機能を動作させる場合は,同一回線上のすべてのルータにコンフィグレーションコマンドipv6 pim ssmおよびipv6 mld ssm-map staticを設定してください。

    図26‒32 PIM-SSMで注意が必要な構成(複数ルータと受信者の接続)

    [図データ]

  • 次の図に示す構成のように,上流となるVPN 1(グローバルネットワーク)で異なるドメイン上の送信者Sから送信されるマルチキャストパケットをPIM非接続インタフェースを経由してVPN 2(VRF 20)にマルチキャスト中継する場合,次の設定が必要です。

    • 本装置では,上流となるVRFのPIM非接続インタフェースにマルチキャストサーバ仮想接続機能を設定する。また,マルチキャストエクストラネットの設定とともに,本装置の中継先VRFに送信者Sへのユニキャスト経路を設定する。

    • 中継先VPN上の下流ルータ(ルータ2)に,送信者Sへのユニキャスト経路を設定する。

      図26‒33 PIM-SSMで注意が必要な構成(エクストラネットでのPIM非接続インタフェース経由の中継)

      [図データ]

(b) 送信者に複数のアドレスを設定したときの注意事項

PIM-SSM使用時マルチキャスト送信者に複数のIPv6アドレスを付与して運用する場合,送信されるマルチキャストパケットの送信元アドレスが本装置にコンフィグレーションコマンドipv6 mld ssm-map staticで設定した送信元アドレスと一致するようにしてください。特に,RA(Router Advertisement)などのアドレス自動設定機能を使用した場合は,マルチキャスト送信者が自動設定されたアドレスを使用して通信することがあります。