コンフィグレーションガイド Vol.3
IPv4マルチキャストでは,二重化装置による運用で系切替する場合,無停止でPIM-SMおよびPIM-SSMのマルチキャスト中継を継続する機能をサポートしています。本機能は,コンフィグレーションコマンドip pim nonstop-forwardingを設定すると有効になります。
本機能では,系切替前に最短パスに切り替わったマルチキャスト中継エントリを無停止中継の対象にしています。そのため,本機能を使用しても,PIM-SMプロトコルの通常処理(ランデブーポイント経由,最短パス切り替えなど)で発生するパケットロスは発生します。
系切替後,再学習時間内は系切替前に設定したハードウェアエントリでマルチキャスト中継を継続します。再学習時間内に新しいマルチキャスト経路情報を学習した場合は,すぐに該当するマルチキャスト中継を開始します。また,学習したエントリに対して離脱要求を受信した場合は,すぐに該当するマルチキャスト中継を停止します。再学習時間内に学習しなかったマルチキャスト中継エントリは,再学習時間終了時に削除します。なお,再学習時間の開始時と終了時にはシステムメッセージを出力します。
再学習時間はデフォルトで240秒です。「(2) 再学習時間の算出方法」を参照して,適切な再学習時間を設定してください。
本機能使用時,VRFのインタフェースでIPv4マルチキャストを使用している場合は,IPv4マルチキャストを使用したVRFの全インタフェースで本機能が有効になります。
なお,系切替後のIPv4マルチキャスト中継エントリの再学習状況は,次に示す運用コマンドで確認できます。
- show ip mcache (show ip pim mcache)
- show ip mroute
- <この項の構成>
- (1) 無停止マルチキャスト中継機能を使用するための前提条件
- (2) 再学習時間の算出方法
- (3) 無停止マルチキャスト中継機能使用時のタイマ仕様
- (4) 再学習時間内の上流インタフェースの切り替え
- (5) コンフィグレーションコマンド変更時の中継動作
- (6) 注意事項
(1) 無停止マルチキャスト中継機能を使用するための前提条件
(a) ユニキャストルーティング高可用機能の使用
無停止マルチキャスト中継機能を使用するときは,ユニキャストルーティング高可用機能を有効にしてください。ユニキャストルーティング高可用機能が無効な場合,系切替後に上流のユニキャスト経路が安定しないため,マルチキャスト中継のパケットロスが多発することがあります。
(b) Generation IDオプションをサポートしている装置の設置
系切替するルータの近隣ルータには,Generation IDオプションをサポート(RFC4601およびRFC5059に準拠)している装置を設置してください。近隣ルータがGeneration IDオプションをサポートしていない場合,系切替後にPIMメッセージの送受信が遅延するため,再学習時間内に再学習が完了しないことがあります。なお,Generation IDオプションについては,「24.4.2 IPv4 PIM-SM」の「(3) 近隣検出」を参照してください。
(2) 再学習時間の算出方法
すべてのマルチキャスト中継エントリの再学習が完了する前に再学習時間が終了すると,未学習のエントリの中継が一時的に停止します。そのため,コンフィグレーションコマンドip pim nonstop-forwardingのaging-timeパラメータには,次の計算式で算出した再学習時間以上の値を設定してください。
再学習時間=次に示す1と2のうち最長値+105秒
- IGMPのグループメンバ学習時間
各IGMPインタフェースのIGMP General Queryメッセージの送信間隔のうち最長値(デフォルトでは125秒)と,IGMP Reportメッセージの最大応答待ち時間(本装置がQuerierの場合は10秒)との合計。
- PIM Joinメッセージの受信時間
各PIMインタフェースの下流ルータから受信するPIM Join/Pruneメッセージの受信間隔のうち最長値(下流ルータが本装置の場合,デフォルトでは60秒)。
(3) 無停止マルチキャスト中継機能使用時のタイマ仕様
本機能を有効にした場合,次に示すタイマ仕様を変更します。
- Bootstrap-Period
ブートストラップルータで本機能を使用した場合,再学習時間内はPIM Candidate-RP-Advertisementメッセージの受信と同時にPIM Bootstrapメッセージを送信します(本機能未使用時は60秒間隔)。
- RP-Holdtime
ランデブーポイントで本機能を使用した場合,PIM Candidate-RP-AdvertisementメッセージのRP-Holdtimeをデフォルトでは260秒に設定して広告します(本機能未使用時は150秒を設定)。
- J/P_HoldTime
上流方向にPIM Join/Pruneメッセージを送信する装置で本機能を使用した場合,J/P_HoldTimeには次に示す値のうち,長い方の時間を設定して送信します(本機能未使用時は210秒を設定)。
- PIM Join/Pruneメッセージの送信間隔(デフォルトで60秒)×3.5
- 再学習時間(デフォルトで240秒)+10秒
(4) 再学習時間内の上流インタフェースの切り替え
再学習時間内にマルチキャスト中継エントリの上流インタフェースのユニキャスト経路が変更された場合,通常と同様に,該当するエントリの上流インタフェースもユニキャスト経路に従って変更します。このとき,一時的にパケットロスが発生します。
このユニキャスト経路の変更を抑止するには,送信元へのユニキャスト経路をスタティック経路で設定してください。また,ユニキャスト経路の変更によって上流インタフェースが該当するエントリの下流インタフェースに変更された場合,この下流インタフェースへの中継を停止します。
(5) コンフィグレーションコマンド変更時の中継動作
(a) PIM-SSMで使用するアドレス範囲の変更
再学習時間内にコンフィグレーションコマンドでPIM-SSMで使用するアドレス範囲を変更すると,再学習時間が終了します。この場合,再学習時間内に未学習のマルチキャスト中継エントリの中継を停止します。
(b) VRFのマルチキャスト中継の停止
再学習時間内にコンフィグレーションコマンドでVRFのマルチキャスト中継を停止すると,再学習時間が終了します。この場合,残りのすべてのVRFで,再学習時間内に未学習のマルチキャスト中継エントリの中継を停止します。
(c) 下流インタフェースのIPv4マルチキャスト設定
再学習時間内にコンフィグレーションコマンドでマルチキャスト中継エントリの下流インタフェースのIPv4マルチキャストを無効にしても,未学習のエントリの場合は該当するエントリの中継を継続します。ただし,この中継は再学習時間終了時に停止します。
(6) 注意事項
- 本機能を使用する場合,運用系ならびに待機系のBCUおよびPSUのソフトウェアを本機能対応バージョンにアップデートしてください。
運用系および待機系のBCUだけが本機能対応バージョンで,PSUが本機能未対応バージョンのまま無停止マルチキャスト中継機能を使用すると,系切替時にIPv4マルチキャストルーティングプログラムが再起動します。この場合,IPv4マルチキャストルーティングプログラムがマルチキャスト経路情報を再学習するまで,マルチキャスト中継が停止します。
- 再学習時間の終了時,マルチキャスト中継エントリの無通信を監視しないで,未学習のマルチキャスト中継エントリを削除します。そのため,コンフィグレーションコマンドip pim keep-alive-timeで無通信時のエントリ保持時間を再学習時間より長く設定していても,再学習時間の終了時に該当するマルチキャスト中継エントリは削除されます。
- マルチキャストエクストラネットのマルチキャスト中継エントリは,本機能の対象外です。そのため,系切替が発生すると該当するエントリのマルチキャスト中継を停止します。系切替後,該当するエントリを再学習すると中継を再開します。
- 系切替の直前にマルチキャストパケットの二重中継が発生すると,二重中継の解消に時間が掛かることがあります。この場合,系切替後にマルチキャスト経路情報を再学習すると,PIM Assertメッセージによって二重中継が解消されます。
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