解説書 Vol.1
- <この項の構成>
- (1) ルーティングドメイン (または単にドメイン)
- (2) サポートプロトコル体系
- (3) NET
- (4) IS-ISインタフェース
- (5) LSP
- (6) 広告方式
- (7) ホスト名広告
(1) ルーティングドメイン (または単にドメイン)
一つのルーティングプロトコルにより経路を管理しているネットワークの範囲のことを,ルーティングドメイン,または単にドメインと呼びます。
IS-ISプロトコルで相互接続しており,IS-ISを使用してルーティングをしている部分のネットワークを,IS-ISルーティングドメイン,または単にIS-ISドメインと呼びます。
(2) サポートプロトコル体系
IS-ISでは,複数のプロトコル体系のルーティングを同時にサポートすることができます。
本装置では,IPv4およびIPv6のルーティングをサポートしています。本装置は,デフォルトでは,IPv4経路だけをルーティングします。
ルーティングするプロトコルは,全ルータで統一してください。
- 【注意事項】
- IS-ISでIPv4ルーティングを行う場合,IS-ISドメイン上の全ルータを,IS-ISでIPv4ルーティングをするよう設定する必要があります。また,隣接ルータと接続する全インタフェースを,IPv4パケットを送受信できるよう設定する必要があります。
- 同様に,IS-ISでIPv6ルーティングを行う場合,IS-ISドメイン上の全ルータを,IS-ISでIPv6ルーティングをするよう設定する必要があります。また,隣接ルータと接続する全インタフェースを,IPv6パケットを送受信できるよう設定する必要があります。
- また,IPv4とIPv6の両方をルーティングする場合も,上記設定が必要です。
- 上記条件が満たされない場合,隣接ルータ間でIS-ISプロトコルが接続しないことがあります。また,IS-ISが求めた経路が,該当プロトコル体系の通信機能がないルータ・インタフェースおよび回線を使用する経路となることがあります。
(3) NET
IS-ISでは,IS-ISルータにNET (Network Entity Title) を定義します。NETは,エリア識別子 (area address),装置識別子 (system ID),SEL (ルータでは必ず0を使用する) の三つのフィールドから成り立っています。NETのフォーマットを次の図に示します。例では,NETとして,値49.0102.0304.0506.0708.0000.87c0.3655.00を使用しています。
図14-1 NETのフォーマット
- エリア識別子
エリア識別子は,IS-ISネットワーク上でのエリアを区別するための数値です。1オクテット以上13オクテット以下の16進数として表記します。エリア識別子が同じルータは,同じエリアに所属しています。2台のルータ間でエリア識別子が異なる場合,この2台のルータのエリアは異なります。エリア識別子の長さが異なる場合,エリアは異なるものとして扱います。
エリア識別子には,先頭1オクテットが49 (16進) で始まるアドレスを使用することを推奨します。これは,NETは本来OSIプロトコル体系のアドレスであること,およびOSIの規定によると,独自に構成したOSIネットワーク上では,アドレスの先頭1オクテットが49 (16進) でなければならないとされていることに由来します。
エリア分割を行わない場合,全ルータのエリア識別子を同じに設定してください。エリア識別子が複数存在すると,IS-ISではエリア分割をしているものとして動作します。
エリア分割を行わない場合,全ルータをレベル1-2ルータとして設定してください。レベル1で動作しないルータが含まれている場合,適切ではない経路を選択することがあります。また,レベル2で動作しないルータが含まれている場合,IS-ISの外部から導入した経路について,通信ができないルータが発生します。
エリア分割については,「14.2.2 エリア分割とレベル」をご参照ください。
「図14-1 NETのフォーマット」の例では,エリア識別子に49.0102.0304.0506.0708を使用しています。
- 装置識別子
装置識別子は,IS-ISネットワーク上の各ルータを区別するための数値です。6オクテットの16進数として表記します。
IS-ISネットワーク上の複数のルータに,同じ装置識別子を設定しないでください。装置識別子の同じルータが2台以上存在する場合,正しい経路を生成しません。
「図14-1 NETのフォーマット」の例では,装置識別子に0000.87c0.3655を使用しています。
- SEL
SELは,OSIプロトコル体系において,トランスポート層の通信セッションを区別するための数値です。1オクテットの16進数として表記します。
IS-ISでは,ネットワーク層のルーティングプロトコルを示す値’00’を使用します。
「図14-1 NETのフォーマット」の例でも,SELの値に00を使用しています。
(4) IS-ISインタフェース
IS-ISでは,経路情報の交換にIPv4パケットもIPv6パケットも使用しません。代わりに,OSIプロトコル体系のOSIパケットを使用します。
IPv4やIPv6とOSIとでは,回線上でのパケットカプセル化方式が異なります。このため,同一回線上でも,IPv4・IPv6のMTUと,OSIのMTUとは異なります。
OSIでは,OSIパケットの送受信上,ルータ間を接続する回線やLANを,三つの種類に分類します。
- broadcast
回線上にルータやホストを多数接続することができ,かつ一つのパケットを,同時に多数のルータやホストへ送信することができる回線を,broadcast subnetworkに分類します。
イーサネットなどのLANが,これに該当します。
- generic topology (未サポート)
複数の回線から構成されており,各回線が1台の対向装置と接続しているネットワークを,generic topology subnetworkに分類します。
ATMやWANのポイント−マルチポイント回線が,これに該当します。
- point-to-point
ネットワーク上に回線が一つしかなく,この回線上に対向装置が1台だけ存在するネットワークを,point-to-point subnetworkに分類します。
ATMやWANのポイント−ポイント回線が,これに該当します。
- 【注意事項】
- IS-ISインタフェースの,IS-ISパケット送受信上のMTUは,1492オクテット以下に設定しないでください。MTUが1492オクテット以下であるIS-ISインタフェースが存在する場合,該当インタフェース上の隣接ルータと正常にパケット交換ができないことがあります。
- PPPで2台の装置を接続した場合,OSIプロトコル体系ではpoint-to-pointと認識されます。
上記ネットワークは,IPv4・IPv6プロトコル体系ではブロードキャストインタフェースとして動作させる場合もありますが,IPv4/IPv6プロトコル体系での動作方式と,OSIプロトコル体系での回線種別には,関係がありません。
- IS-ISインタフェースとして使用するLineには,イーサネットのジャンボフレームを設定しないでください。設定した場合,隣接ルータ間でIS-ISプロトコルが接続しないことがあります。
(5) LSP
IS-ISでは,ルータの広告情報はすべてLSP (リンクステートPDU) というパケットに納められています。各ルータは,レベルごとに,LSPを256個まで生成することができます。LSP の長さは最大1492オクテットです。
実際には,LSPヘッダの27オクテット,およびLSPのフォーマット形式のオーバヘッドにより,1ルータのレベルごとの広告情報量は,約340キロオクテットになります。
1台のルータが一つのレベルに広告できる経路数は,IPv4・IPv6の広告情報量をあわせて,約340キロオクテットまでとなります。IPv4だけの場合はおよそ30,000経路,IPv6だけの場合はおよそ15,000経路が上限になります。
広告情報一つ当たりの情報量については,「表14-6 TLVの種別」をご参照ください。
(6) 広告方式
本装置では,2種類のIS-IS広告方式をサポートしています。この広告方式を,それぞれナロウとワイドと呼びます。広告方式や広告経路のプロトコル体系に応じて,広告できる経路属性情報やその値の範囲が異なります。基本的には,次の方針に従って広告方式を選択してください。
- IS-ISネットワーク内の全ルータで同じ広告方式を選択してください。既存のIS-ISネットワークに装置を導入する場合は,既存ネットワークの広告方式と合わせて設定してください。
- IS-ISでIPv6ルーティングを行う場合,ワイドを選択してください。IPv6経路情報はワイドの広告形式と近いからです。また,装置によってはナロウを選択するとIPv6経路を扱えません。
- インタフェースや広告経路のメトリック値を64以上にしたい場合,ワイドを選択してください。
IS-ISの広告経路属性には,経路種別,メトリック種別,およびメトリック値の三つがあります。この属性は,広告経路を学習するルータで,学習経路選択時の優先度決定に使用します。
経路広告時にすべての経路属性が付属しているとは限りません。広告経路のプロトコル体系や広告方式により,経路に付属している広告属性と付属していない広告属性が決まっています。
広告内容と広告方式に基づく経路属性の有無,およびその値を次の表に示します。
表14-3 IS-IS広告方式と経路属性
広告内容 広告方式 ナロウ ワイド 隣接ルータ 準拠規格 ISO 10589 インターネットドラフト“IS-IS extensions for Traffic Engineering” 経路種別 広告しない
(学習側では内部経路として扱います)広告しない
(学習側では内部経路として扱います)メトリック種別 広告しない
(学習側ではインターナルメトリックとして扱います)広告しない
(学習側ではインターナルメトリックとして扱います)メトリック値 1 〜 63
(63以上の値で広告しようとした場合,63として広告)1 〜 16,777,215 IPv4経路 準拠規格 RFC 1195 インターネットドラフト
“IS-IS extensions for Traffic Engineering”経路種別 広告する 広告しない
(学習側では内部経路として扱います)メトリック種別 広告する 広告しない
(学習側ではインターナルメトリックとして扱います)メトリック値 1 〜 63
(63以上の値で広告しようとした場合,63として広告)1〜4,261,412,864
(4,261,412,864以上の値で広告しようとした場合,4,261,412,864として広告)IPv6経路 準拠規格 インターネットドラフト “Routing IPv6 with IS-IS” 経路種別 広告する メトリック種別 広告しない
(学習側ではインターナルメトリックとして扱います)メトリック値 1 〜 4,261,412,864
(4,261,412,864以上の値で広告しようとした場合,4,261,412,864として広告)以下に,IS-ISの広告に付随する各情報を説明します。
- 経路種別
経路を最初にIS-ISに導入したルータにおいて,その経路がIS-IS内部由来か,IS-IS以外のプロトコル由来かを示す情報です。
- メトリック種別
広告経路のメトリック種別を指定します。メトリック種別には,エクスターナルメトリックと,インターナルメトリックの2種類があります。メトリック種別は,広告経路を学習するルータで,ほかの広告経路との経路選択に使用されます。
- メトリック
広告経路のメトリックを指定します。メトリックは,広告経路を学習するルータで,ほかの広告経路との経路選択に使用されます。
(7) ホスト名広告
本装置では,経路情報の一部として,本装置のホスト名を広告します。本装置が広告したホスト名は,他装置でIS-ISプロトコル情報を表示する際に,本装置を指定するときの本装置名として使用できます。また,表示内容中の本装置名として使用されます。
同様に,他装置がホスト名を広告している場合,本装置の運用コマンドで他装置を指定する場合,他装置のsystem IDの代わりに他装置名を使用できます。また,本装置運用コマンド表示内容中の他装置の表示が,system IDではなく他装置名となります。
本装置では,装置名としてコンフィグレーションコマンドsystemのnameパラメータで指定した装置名を広告します。
コンフィグレーションコマンドsystemのnameパラメータ指定がない場合,次に示すホスト名を広告します。
- AX7800Sの場合,文字列「AX7800S-<system ID>」を広告します。
- AX5400Sの場合,文字列「AX5400S-<system ID>」を広告します。
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