解説書 Vol.1
- <この項の構成>
- (1) 概要
- (2) グレースフル・リスタートを使用しない場合の問題
- (3) グレースフル・リスタートによる解決方法
- (4) グレースフル・リスタートのサポート範囲
- (5) 設定可能なコンフィグレーションオプション
- (6) 関連するマニュアル記載事項
- (7) 使用上の注意事項
(1) 概要
グレースフル・リスタートは,装置のBCUが系切替したり,運用コマンドなどによりユニキャストルーティングプログラムが再起動したりしたときに,ネットワークから経路が消えることによる通信停止時間を短縮する機能です。
(2) グレースフル・リスタートを使用しない場合の問題
本装置では,装置のBCUが系切替したり,運用コマンドなどによってユニキャストルーティングプログラムが再起動したりしても,本装置がパケット転送を中断することはありません。これは,本装置ではPSUにもルーティングテーブルがあるため,ルーティングプログラムを切り替えても以前のルーティングプログラムの経路を保留して動作し続けているためです。
しかし,ルーティングプロトコルを使用している場合,隣接ルータが本装置へパケットを転送しなくなるため,ネットワーク全体では通信が一時的に停止することがあります。これは以下の理由によります。
- 新たに動作を始めたルーティングプログラムが隣接ルータと通信を開始すると,隣接ルータは新たな接続要求を受け取ります。これによって,隣接ルータでは以前の接続が切断したものと認識し,該当装置を経由する経路を削除します。
- 本装置が一部の経路を広告しません。これは,新しく動作を開始したルーティングプログラムが経路広告を開始した時点では,まだ経路情報の学習が完了していないためです。隣接ルータでは,本装置が広告しなかった経路を削除します。
(3) グレースフル・リスタートによる解決方法
グレースフル・リスタートは,上記問題を解決することによってルーティングプログラム切替時の通信停止時間を短縮する機能です。以下に具体的な解決方法を示します。
- 隣接ルータに,グレースフル・リスタートを補助する機能を用意します。グレースフル・リスタートによる接続要求を受け取ったときに,以前の接続を切断して再接続するのではなく,以前の接続を継続しているものと認識する機能を追加します。これによって,ルーティングプログラム切替時にも隣接ルータとの接続が切断しなくなるため,隣接ルータも経路を保持したまま動作します。
- 経路学習・経路広告の処理順序を固定します。グレースフル・リスタートするに当たり,まず隣接ルータから経路情報を学習し,経路学習が完了してから経路広告を開始します。これによって,一部経路しか広告しないことで隣接ルータから経路が消えることがなくなります。
なお,グレースフル・リスタートを実施するルータのことをリスタートルータと呼びます。
次の図と表に,本装置のグレースフル・リスタート動作手順を示します。
表12-30 グレースフル・リスタート手順
項番 動作 1 系切替またはルーティングプログラムの再起動を検出すると,各プロトコルがグレースフル・リスタートを開始します。
各プロトコルは,グレースフル・リスタートによる再接続を行い,経路を学習します。2 グレースフル・リスタート対象の各プロトコルが経路学習を完了します。 3 経路学習の完了後,グレースフル・リスタート対象の各プロトコルは経路広告を開始します。 4 各プロトコルは,経路広告を完了したら通常のプロトコル動作に復帰します。
全プロトコルが経路を広告し終わった時点で,装置全体のグレースフル・リスタートが完了します。
(4) グレースフル・リスタートのサポート範囲
グレースフル・リスタート機能のサポート範囲を次の表に示します。
項目 サポート 対象イベント 装置再起動 × BCU再起動 × BCU系切替 ○※1※2 ユニキャストルーティングプログラム再起動 ○※1 対象インタフェース イーサネット Line ○ Tag-VLAN連携 ○ リンクアグリゲーション ○※3※4 VLAN ○※5 POS ○※6 トンネル × 対象フォワーディング・パケット IPv4ユニキャスト ○※7※8 IPv6ユニキャスト ○※7※8 対象ルーティングプロトコル OSPF ○ OSPFv3 ○ IS-IS ○ BGP4 ○ BGP4+ ○ (凡例) ○:取り扱う ×:取り扱わない
- 注※1
- グレースフル・リスタート中に再度イベントが発生した場合には,グレースフル・リスタートしません。
- 注※2
- 本装置の系切替条件については,「解説書 Vol.2 4. 冗長構成」を参照してください。
- 注※3
- LACPを使用するリンクアグリゲーションを除きます。本装置でLACPによるリンクアグリゲーション機能とグレースフル・リスタートを同時に使用すると,系切替時のグレースフル・リスタートに失敗します。これは,系切替時にLACPが障害を検出し,リンクアグリゲーションを通信不可状態にするためです。
- 注※4
- 系切替時にリンクアグリゲーションのMACアドレスが変らないようにするため,コンフィグレーションコマンドlocal-mac-addressの定義が必要です。
- 注※5
- スパニングツリーを使用するVLANを除きます。本装置でスパニングツリー機能を使用している場合,系切替時にグレースフル・リスタートを使用しても通信停止時間が発生します。これは,本装置が系切替すると,スパニングツリーが一時的に不安定な状態になり,通信ができなくなるためです。
- 注※6
- PPPのリンク品質監視を使用する場合を除きます。本装置でPPPのリンク品質監視機能とグレースフル・リスタートを同時使用すると系切替時のグレースフル・リスタートに失敗します。これは,系切替時に回線品質低下を検出し,回線を切断するためです。
- 注※7
- ソフトウェアによるフォワーディング・パケットを除きます。
- ・装置内でフラグメント化が必要なパケット
- ・オプション付きパケット
- 注※8
- グレースフル・リスタート以外のサービス機能の中断により中継不可となるケースを除きます。例えば,以下のケースがあります。
- ・DHCPのサービス中断
- ・ARP/NDPの応答中断
(5) 設定可能なコンフィグレーションオプション
本装置では,装置全体でのグレースフル・リスタートの使用可否,グレースフル・リスタート時の経路保留時間,各プロトコルのグレースフル・リスタート機能,および各プロトコルのグレースフル・リスタート補助機能を設定することができます。また,グレースフル・リスタート機能とグレースフル・リスタート補助機能を同時に設定することもできます。
(6) 関連するマニュアル記載事項
グレースフル・リスタートの動作方式はプロトコルによって異なるため,動作条件も異なります。使用前に,各プロトコルのグレースフル・リスタート動作条件をご確認ください。各プロトコルの個別機能については,以下を参照してください。
- OSPF :「12.5.9 グレースフル・リスタート」
- BGP4 :「13.3.11 グレースフル・リスタート」
- IS-IS :「14.2.8 グレースフル・リスタート」
- OSPFv3 :「17.5.8 グレースフル・リスタート」
- BGP4+ :「18.3.11 グレースフル・リスタート」
また,本装置の系切替時にグレースフル・リスタートを使用する場合,本装置の系切替条件をご確認ください。系切替による経路引き継ぎ条件および動作手順については, 「解説書 Vol.2 4. 冗長構成」を参照してください。
(7) 使用上の注意事項
- 障害による系切替の場合,系切替が完了しグレースフル・リスタートによる再学習を始めるよりも前に,隣接装置が切断を検出することがあります。各プロトコルの切断検出時間を,系切替所要時間よりも長くなるようにしてください。以下に,デフォルト値で運用したときのプロトコル別の切断検出までの最短時間の目安値を示します。
OSPF,OSPFv3: 25秒
BGP4,BGP4+ : 100秒
IS-IS : 5秒
系切替所要時間はインタフェース数に依存します。「表12-32 系切替所要時間の目安値」の時間を目安としてください。
運用コマンドによる系切替でグレースフル・リスタートを使用する場合,各プロトコルのリスタート時間を,系切替所要時間よりも長くなるように指定してください。
表12-32 系切替所要時間の目安値
インタフェース数※ 系切替所要時間(秒) 250 22 1,000 45 2,000 85 4,000 160 注※ 同一インタフェースそれぞれにIPv4アドレスとIPv6アドレスを定義した場合。
- OSPF・OSPFv3・IS-ISのリスタート時間を,系切替所要時間と経路学習時間の和よりも長くしてください。これは,経路情報を同期するためには,系切替を完了してIPインタフェースのUp/Down状態が確認できるようになる必要があるためです。
系切替所要時間については,「表12-32 系切替所要時間の目安値」を参照してください。
- BGP4・BGP4+のリスタート時間を,系切替所要時間とコネクション確立にかかる時間の和よりも長くしてください。これは,BGP4・BGP4+ピアのコネクションを確立するためには,系切替を完了してIPインタフェースの状態を確認できるようになる必要があるためです。
さらに,BGP4,BGP4+でルーティングピアを使用している場合には,BGP4・BGP4+のリスタート時間を,OSPF・OSPFv3・IS-ISのリスタート時間とピアのコネクション確立にかかる時間の和よりも長くしてください。これは,BGP4・BGP4+ルーティングピアのコネクションを確立するためには,ルーティングピアに使用するIGPがグレースフル・リスタートにより経路を学習しておく必要があるためです。
- グレースフル・リスタート時の経路保留時間(コンフィグレーションコマンドoptionsのgraceful-restart time-limitパラメータ指定値)を,各プロトコルのリスタート時間よりも長く設定してください。OSPF,OSPFv3,ISISでは,リスタート時間が,経路計算の実施を待つ時間の上限となります。したがって,経路保留時間がリスタート時間以下の場合,経路計算によってフォワーディング・テーブルを更新するより先に,保留経路(更新されていないフォワーディング・テーブル)の削除が実行されるので,通信が停止します。また,BGP4とBGP4+では,リスタート時間がBGPコネクションの再確立を待つ時間の上限となるので,再確立が最も遅い場合は,リスタート時間後にBGP4ピアからの経路学習を開始します。経路学習およびフォワーディング・テーブルを更新する時間のため,BGP4とBGP4+のリスタート時間は経路保留時間より60秒程度短い値を設定してください。なお,目安の設定値は経路数および隣接するBGP4ピア数に依存します。
- グレースフル・リスタート中はコンフィグレーションを変更しないでください。グレースフル・リスタート中にコンフィグレーションを変更するとグレースフル・リスタートに失敗することがあります。
- グレースフル・リスタート中は,グレースフル・リスタートの補助機能が動作しません。
- グレースフル・リスタート中に隣接ルータで障害が発生した場合,グレースフル・リスタートに失敗することがあります。
- グレースフル・リスタート手順が成功しても,隣接装置で,本装置から学習した経路情報を保持できなかった場合,通信が停止することがあります。
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