解説書 Vol.1

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12.6.1 IPv4マルチキャスト中継

本装置でマルチキャストパケットを中継する場合には次の点に注意してください。

<この項の構成>
(1) プロトコル共通
(2) PIM-SMおよびPIM-SSMの使用
(3) PIM-SMの使用
(4) PIM-DMの使用
(5) DVMRPの使用

(1) プロトコル共通

(a) ソフトウェア中継処理時のパケットロス

本装置は,最初のマルチキャストパケット受信でマルチキャスト通信を行うためのマルチキャスト中継エントリをハードウェアに設定します。マルチキャスト中継エントリを作成するまでの間ソフトウェアでマルチキャストパケットを中継するため,マルチキャスト通信のトラフィック量によっては一時的にパケットをロスする場合があります(PIM-SSMを除く)。

(b) プロトコルの混在

本装置は,PIM-DM,PIM-SM,DVMRPの混在システムをサポートしていません。したがって,全装置のマルチキャストプロトコル(PIM-DM,PIM-SM,DVMRP)を統一して使用してください。PIM-SSMはPIM-SMの拡張機能なので,PIM-SMとPIM-SSMは混在できます。

(c) 二重化装置での系切替に伴う中継断【AX7800R】

本装置は,二重化装置による運用で現用系から待機系に切り替わる場合は,マルチキャスト経路情報を再学習するまでマルチキャスト通信が停止するので注意してください。

ただし,IPv4 PIM-SMの場合,コンフィグレーションによってマルチキャスト通信を停止することなく系切替ができます。

(d) ルーティングプログラムの再起動に伴う中継断

restart ipv4-multicastコマンド実行によるIPマルチキャストルーティングプログラムの再起動を行う場合は,マルチキャスト経路情報を再学習するまでマルチキャスト通信が停止するので注意してください。

(e) ハードウェア中継切り替え時のパケット追い越し

本装置ではハードウェアへのマルチキャスト中継エントリの設定が完了すると,それまでのソフトウェアによるマルチキャストパケットの中継処理がハードウェア中継へと切り替わります。このときに一部のパケットで追い越しが発生し,パケットの順序が入れ替わる場合があります(PIM-SSMを除く)。

(2) PIM-SMおよびPIM-SSMの使用

(a) 動作インタフェース

IPアドレスのマスク長が8ビットから30ビットのインタフェース上で動作します。ポイント−ポイント型の回線上で動作させる場合,自インタフェースと相手インタフェースのIPアドレスのサブネットを同じにしてください。

(b) タイミングによるパケット追い越し

本装置で送信者からのマルチキャストデータと受信者側からのPIM-Joinメッセージを同時に受信した場合,タイミングによっては一部のパケットで追い越しが発生し,パケットの順序が入れ替わる場合があります。

(c) VRRPとの同時使用

IPv4マルチキャストルーティングプロトコルとVRRPを同時に使用する場合,IPv4マルチキャストソフト処理パケット制御機能の受信パケット数のパラメータをすべて200以下に設定してください。

(3) PIM-SMの使用

PIM-SMを使用する場合は次の点に注意してください。

(a) パス切り替え時の二重中継またはパケットロス

本装置は,ランデブーポイント経由でのマルチキャストパケット中継時およびランデブーポイント経由から最短パス経由への切り替え時,一時的に二重中継またはパケットロスが発生する場合があります。

ランデブーポイント経由のマルチキャストパケットの中継動作およびランデブーポイント経由から最短パス経由切り替え動作は「12.4.2 IPv4 PIM-SM」を参照してください。

(b) 装置アドレス到達可能性

本装置をランデブーポイントおよびブートストラップルータとして使用する場合,装置管理情報のローカルアドレスで定義されたIPv4アドレスがランデブーポイントとブートストラップルータのアドレスになります。この装置管理情報のローカルアドレスはマルチキャスト通信する全装置でユニキャストでのルート認識および通信ができる必要があります。

(c) PIM-Registerメッセージのチェックサム

本装置以外の装置と混在するシステム構成では,PIM-Registerメッセージ(カプセル化パケット)のチェックサムの計算範囲の相違によってマルチキャスト通信ができない場合があります。ランデブーポイントでRegisterメッセージがチェックサムエラーによってマルチキャスト中継しない場合は,本装置のコンフィグレーションでPIMチェックサムを計算する範囲を変更してください。詳細は,マニュアル「コンフィグレーションコマンドレファレンス Vol.1」のpimコマンドを参照してください。

(d) 静的ランデブーポイント

静的ランデブーポイントは,BSRを使用しないでランデブーポイントを指定する機能です。静的ランデブーポイントはコンフィグレーションによって定義します。

静的ランデブーポイントはBSRからBootstrapメッセージによって広告されたランデブーポイント候補との共存もできます。共存時,静的ランデブーポイントはBSRからBootstrapメッセージによって広告されたランデブーポイント候補よりも優先されます。

なお,ランデブーポイント候補のルータは,ランデブーポイントルータアドレスが自アドレスであることを認識することでランデブーポイントとして動作します。したがって,BSRを使用しないで静的ランデブーポイントを使ってネットワークを設計する場合は,ランデブーポイント候補のルータでも静的ランデブーポイントの定義が必要です。

また,静的ランデブーポイントを使用する場合,同一ネットワーク上の全ルータに対して同じ定義をする必要があります。

(e) 系切替時のnonstop forwarding【AX7800R】

PIM-SMに系切替時に通信を継続することが可能なnonstop forwarding機能をサポートしています。

本機能は,コンフィグレーションでnonstop-forwardingを設定した場合だけ有効になります。

nonstop forwarding機能使用時の注意事項を次に示します。

  1. 系切替後のマルチキャスト中継エントリの再学習完了時間は約450秒です。再学習の開始と終了は運用ログとして出力します。運用ログの詳細については,マニュアル「メッセージ・ログレファレンス」を参照してください。
  2. 系切替後のマルチキャスト中継エントリの再学習状況は,次に示す運用コマンドで確認できます。各コマンドの詳細については,マニュアル「運用コマンドレファレンス Vol.2」を参照してください。
    • show ip mroute
    • show ip mcache
    • show ip pim mcache
  3. 系切替後のマルチキャスト中継エントリの再学習中に,次に示す運用コマンドのどちらかを実行すると,nonstop forwardingが無効になり,該当するマルチキャスト中継エントリを再学習するまでの間マルチキャスト中継が一時的に停止します。
    • restart ipv4-multicast
    • clear ip mroute *
  4. 系切替を行うルータおよびその近隣のルータは,ユニキャスト経路制御プロトコルのグレースフルリスタート機能を有効にしてください。グレースフルリスタートが無効な場合は,系切替直後PIMメッセージの送受信が正しく行われないため,マルチキャスト中継が一時的に中断することがあります。
  5. 系切替を行うルータの近隣ルータは,Generation IDオプションをサポート(RFC4601およびdraft-ietf-pim-sm-bsr-07.txtに準拠)している装置を設置してください。近隣ルータがGeneration IDオプションをサポートしていない場合は,系切替直後PIMメッセージの送受信が正しく行われないため,マルチキャスト中継が一時的に中断することがあります。Generation IDオプションの詳細は,「12.4.2 IPv4 PIM-SM (3) 近隣検出」を参照してください。
  6. nonstop forwardingが有効な状態で系切替したあと,マルチキャスト中継エントリを再学習している間,次の場合にパケットロスが発生することがあります。ただし,マルチキャスト中継エントリの再学習が終了したあとは次に示すパケットロスは発生しません。
    • 中継対象のマルチキャスト中継エントリの下流インタフェースに,カプセル化インタフェースが含まれている場合(ランデブーポイント情報を学習するまでカプセル化インタフェースへの中継が止まります)。
    • ランデブーポイント経由の中継が最短パス経由の中継に遷移している途中で,系切替を行った場合(最短パス経由の中継への遷移完了後,パケットロスしなくなります)。
    • ランデブーポイントルータを系切替したときに,新たなグループ参加要求を受信した場合(最短パス経由の中継への遷移完了後,パケットロスしなくなります)。
    • 中継対象のマルチキャスト中継エントリの上流インタフェースが変更された場合(新しい最短パス経由の中継への遷移完了後,パケットロスしなくなります)。
    • 再学習中に閉塞状態のPRU/NIFを運用状態にした場合,該当するPRU/NIFで下流インタフェースがリンクアグリゲーションとなる場合で,次に示す条件をすべて満たしているとき(マルチキャスト中継エントリの再学習終了後,パケットロスしなくなります)。
      ・該当するリンクアグリゲーションが複数PRUにわたっている場合
      ・該当するリンクアグリゲーションの閉塞状態であるPRU/NIFを運用状態にした場合
    • nonstop forwardingが有効な状態で上流方向へPIM Join/Pruneメッセージを送信する装置を系切替した場合,グレースフルリスタート開始後にすべてのユニキャスト経路をBCUのユニキャストルーティングテーブルに設定するまでの時間が,PIM Join/Pruneメッセージ送信間隔の1.5倍以上になるとき(全ユニキャスト経路をBCUのユニキャストルーティングテーブルへ設定終了し,該当する装置が上流方向へPIM Join/Pruneメッセージを送付したあと,パケットロスしなくなります)。系切替装置でPIM Join/Pruneメッセージ送信間隔を130秒以上に設定することで,このパケットロスを防ぐことができます。ただし,この設定をしても,BGPにより多数の近隣装置と大量の経路情報を交換する場合やグレースフルリスタートの設定によっては,パケットロスするおそれがあります。この場合は,系切替対象装置に送信元アドレスおよびランデブーポイント装置アドレスへのスタティック経路を最低の優先度で設定してから系切替してください。
  7. nonstop forwardingが有効な状態で系切替したあと,マルチキャスト中継エントリを再学習している間,次に示す意図しない中継が発生することがあります。ただし,マルチキャスト中継エントリの再学習が終了したあとは,意図しない中継は発生しません。
    • マルチキャストデータの二重中継が発生した場合,その解消に時間がかかることがあります(BCUがマルチキャスト経路情報を再学習すると,PIM Assertにより二重中継が抑制されます)。
    • 中継対象のマルチキャスト中継エントリのインタフェースに障害が発生し,その後回復した場合,再学習に関係なく中継を再開することがあります。
    • 中継対象のマルチキャスト中継エントリのインタフェースをコンフィグレーションまたはプロトコル処理によって削除した場合,中継が停止しないことがあります。
    • ランデブーポイント経由の中継が最短パス経由の中継に遷移している途中,両方から二重にパケット中継が行われることがあります(最短パスの配送木への遷移完了後,二重パケット中継はなくなります)。
  8. nonstop forwardingが有効な状態でランデブーポイントルータを系切替した場合,マルチキャスト中継エントリを再学習している間でも,PIM Registerパケット受信によってソフトウェア中継処理が呼び出される場合は,ipMRoutePktsカウンタが加算されます。
  9. nonstop forwardingが有効な状態で系切替したあと,マルチキャスト中継エントリを再学習している間は,マルチキャスト中継エントリの無通信監視を行わず,再学習終了時に未学習のマルチキャスト中継エントリを削除します。そのため無通信エントリ保持時間を再学習期間よりも長く設定していても,系切替後の再学習終了後にマルチキャスト中継エントリが保持されません。
  10. nonstop forwardingが有効な状態でBSRを系切替した場合,マルチキャスト中継エントリ再学習期間中はPIM Candidate-RP-Advertisementメッセージの受信と同時にPIM Bootstrapメッセージを広告します。そのため同期間中は,通常の60秒間隔よりも短い間隔でPIM Bootstrapメッセージを広告します。
  11. nonstop forwardingが有効な状態でランデブーポイントを系切替した場合,マルチキャスト中継エントリ再学習期間中はPIM Candidate-RP-Advertisementメッセージのランデブーポイント保持期間を210秒(通常は150秒)に設定して広告します。
  12. nonstop forwardingが有効な状態で系切替したあと,PIM-SMがマルチキャストインタフェースを認識するのに時間が掛かる場合があります。マルチキャストパケット中継には影響ありませんが,運用コマンドshow ip pim interfaceなどの表示が正しくなるまで,時間が掛かることがあります。
  13. nonstop forwardingが有効な状態で系切替したあと,マルチキャスト中継エントリを再学習している間,PIM-SSMの動作範囲をコンフィグレーションで変更しないでください。マルチキャスト中継エントリ再学習期間中にPIM-SSM動作範囲をコンフィグレーションで変更し,マルチキャスト中継エントリがPIM-SMからPIM-SSM経路,またはPIM-SSMからPIM-SM経路となった場合,マルチキャスト中継の動作は保証できません。

(4) PIM-DMの使用

IPアドレスのマスク長が8ビットから30ビットのインタフェース上で動作します。ポイント-ポイント型の回線上で動作させる場合,自インタフェースと相手インタフェースのIPアドレスのサブネットを同じにしてください。

(5) DVMRPの使用

IPアドレスのマスク長が8ビットから30ビットおよび32ビットのインタフェース上で動作します。DVMRPはデフォルトルート"0.0.0.0"をサポートしていません。したがってデフォルトルートによるマルチキャストパケットの中継は動作しません。

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