解説書 Vol.2
- <この項の構成>
- (1) 無停止ソフトウェア・アップデート概要
- (2) 無停止ソフトウェア・アップデートの運用条件
- (3) 無停止ソフトウェア・アップデートのサポート範囲
- (4) 無停止ソフトウェア・アップデート時の動作
- (5) 使用上の注意事項
無停止ソフトウェア・アップデートは,BCU二重化構成で,ソフトウェア・アップデートの際のBCU系切替時にPRUを停止させないことによって通信の停止時間を短縮します。ソフトウェアのアップデートは,運用系,待機系ごとに行いますが,この際,BCU系切替が発生します。この系切替の間PRUを停止しないため,PRU,NIF,回線は動作を継続し,PRU上のルーティングテーブルを保持した状態でハードウェア中継を継続することができます。
この機能は,ソフトウェア・アップデート時の系切替時に,PRUを停止しないでハードウェア中継の停止時間を短縮することだけを行います。
運用系BCUと待機系BCU間では経路情報の同期化を行っていないため,隣接ルータとの接続性を維持するためには,ユニキャスト・ルーティング・プロトコルのグレースフル・リスタートと併用することが必要です。
無停止ソフトウェア・アップデートを行う場合は事前に以下の運用状態にしてください。
(a) 装置運用状態の設定
set modeコマンドによって運用状態をha_duplex(高可用性モード)に設定してください。set modeコマンドについては,「運用コマンドレファレンス Vol.2 10. 二重化管理」を参照してください。
この状態に設定しないでソフトウェアのアップデートを行った場合は,系切替後,PRUが再起動する場合があります。この間,通信は中断します。
(b) グレースフル・リスタートの設定
ユニキャスト・ルーティング・プロトコルのグレースフル・リスタートを運用状態にしてください。
グレースフル・リスタートについては,以下を参照してください。
- 一般の適用範囲:
「解説書 Vol.1 8.8 グレースフル・リスタートの概要」
- 各プロトコルの方式・動作・適用範囲:
OSPF :「解説書 Vol.1 8.5.9 グレースフル・リスタート」
BGP4 :「解説書 Vol.1 9.3.12 グレースフル・リスタート」
IS-IS :「解説書 Vol.1 10.2.8 グレースフル・リスタート」
OSPFv3:「解説書 Vol.1 14.5.8 グレースフル・リスタート」
BGP4+ :「解説書 Vol.1 15.3.11 グレースフル・リスタート」
- 二重化運用時の動作概要:
「3.2.2 BCU切替時の動作 (2) BCU切替時の本装置と相手装置の中継動作」
グレースフル・リスタートの運用状態に設定しないでソフトウェアのアップデートを行った場合は,系切替後,隣接ルータとの間で以前の接続が切断されたものと認識して経路が削除されることによって通信が停止する場合があります。
無停止ソフトウェア・アップデートは,BCU二重化構成でのVer. 9.1以降のサポート機能であり,Ver. 9.1以降のバージョン間によるアップデートの際に使用可能です。BCU一重化構成の場合や,アップデート前のバージョンとアップデート後のバージョンのどれかがVer. 9.1より前のバージョンとのアップデートではこの機能は有効になりません。
無停止ソフトウェア・アップデートのサポート範囲を次の表に示します。
表3-3 無停止ソフトウェア・アップデートのサポート範囲
項 目 サポート 対象BCU構成 BCU一重化 − BCU二重化 ○※1 対象ソフトウェア
バージョンアップデート前のバージョンと後のバージョンが共にVer. 9.1以降 ○ アップデート前のバージョンと後のバージョンのどれかがVer. 9.1より前 − 対象インタフェース イーサネット Line ○ Tag-VLAN連携 ○ リンクアグリゲーション ○※2 POS ○※3 トンネル − 対象フォワーディング
パケットIPv4ユニキャスト ○※4 IPv6ユニキャスト ○※4 IPv4マルチキャスト PIM-SM ○※4,※5,※9 PIM-SSM − IPv6マルチキャスト PIM-SM − PIM-SSM ○※4,※5,※6 MPLS ○※7 対象ルーティング
プロトコルIPv4ユニキャスト ○※8 IPv6ユニキャスト ○※8 IPv4マルチキャスト PIM-SM ○※5,※9 PIM-SSM − IPv6マルチキャスト PIM-SM − PIM-SSM ○※5,※6 (凡例) ○:取り扱う −:取り扱わない
- 注※1
- BCU二重化構成で,set modeコマンドによって運用状態をha_duplex(高可用性モード)に,ユニキャスト・ルーティング・プロトコルのグレースフル・リスタートを運用状態に設定している場合にだけ運用可能です。
- 注※2
- リンクアグリゲーションについては,以下の条件があります。
- ・アップデート前のバージョンとあとのバージョンが共にVer.9.3以降であること。
- ・LACPを使用していないこと。
- ・local-mac-address定義を設定していること。
- 注※3
- PPPのリンク品質監視を使用する場合を除きます。本装置でPPPのリンク品質監視機能を使用時にソフトウェア・アップデートを行うと無停止ソフトウェア・アップデートができません。これは,系切替時に回線品質低下を検出し,回線を切断するためです。
- 注※4
- ハードウェアによるフォワーディング・パケットだけを対象とします。
- ソフトウェアによるフォワーディング・パケットを除きます。
- ・装置内でフラグメント化が必要なパケット
- ・オプション付きパケット
- 注※5
- 本機能は,コンフィグレーションでnonstop forwarding機能を設定した場合だけ有効です。
- 注※6
- 対象ソフトウェアのバージョンは,アップデート前とアップデート後のバージョンが共にVer.9.4以降です。
- 注※7
- static LSPを使用したときだけが対象です。LDPやBGPを使用したMPLS通信は対象外です。
- 注※8
- ユニキャスト・ルーティング・プロトコルで,グレースフル・リスタート機能をサポートしているプロトコルだけを対象とします。
- 注※9
- 対象ソフトウェアのバージョンは,アップデート前とアップデート後のバージョンが共にVer.10.5以降です。
無停止ソフトウェア・アップデート時の動作を次に示します。アップデート中のルーティングエントリの学習状態,中継動作の詳細については,「3.2.2 BCU切替時の動作 (2) BCU切替時の本装置と相手装置の中継動作」を参照してください。
ソフトウェア・アップデートの操作手順は,ソフトウェアと共に提供いたします「インストールガイド」を参照してください。
- ソフトウェア・アップデート前
ソフトウェア・アップデート前のBCU二重化構成の中継状態を以下に示します。運用系BCUとPRU上のルーティングテーブルに経路情報が存在し中継を行っている例です。
- 待機系BCUのソフトウェア・アップデート
ソフトウェア・アップデートは,始めに待機系BCUのアップデートを行います。待機系BCUのアップデートを実行すると,待機系BCUは再起動され,ソフトウェアがアップデートされます。
待機系BCUのアップデートの際,PRUを停止することなく中継は継続されます。
図3-21 ソフトウェア・アップデート(待機系BCUアップデート)
- 運用系BCUのソフトウェア・アップデート
次に運用系BCUのアップデートを行います。運用系BCUのアップデートを実行すると,系切替を行います。
同時に,運用系BCUは再起動され,ソフトウェアがアップデートされます。
図3-22 ソフトウェア・アップデート(運用系BCUアップデート)
- 系切替発生
系切替によって,待機系は新運用系に,運用系は新待機系となって運用を継続します。新待機系BCUのルーティングテーブルはソフトウェア・アップデート時の再起動によって初期化されます。
新運用系BCUのルーティングテーブルはルーティングプロトコルの学習が始まっていないため,まだエントリはありません。
系切替によってPRUを再初期化しないため,PRUのルーティングテーブルには系切替前のエントリが保持されていて中継は継続されます。
- 系切替後
系切替後,新運用系はグレースフル・リスタート機能によって隣接ノードと経路の再学習を行い,PRUのルーティングテーブルを上書きします。この間も中継は継続されます。
図3-24 ソフトウェア・アップデート(系切替後)
(5) 使用上の注意事項
(a) 系切替後のPRUの動作について
「(2) 無停止ソフトウェア・アップデートの運用条件」の下でアップデートを実施した場合でも,アップデート前のソフトウェア・バージョンとアップデート後のソフトウェア・バージョンの関係によって,系切替後,PRUが再起動して通信が中断する場合があります。
ソフトウェア・バージョンとPRUの再起動の関係については,ソフトウェアと共に提供いたします「リリースノート」を参照してください。
(b) コンフィグレーションについて
ランニングコンフィグレーションを編集した場合はコンフィグレーション操作コマンドsaveによって運用系と待機系のスタートアップコンフィグレーションファイルの同期を行ってください。
同期を行わずにアップデートを行った場合は通信が停止する場合があります。
(c) パケットロスについて
アップデート時の系切替の際に中継を維持する対象パケットはハードウェア中継だけです。系切替の際,約50ミリ秒間相当のパケットロスが発生します。
ソフトウェア中継パケットについては,系切替時のCPU負荷に応じてパケットロスが発生します。
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