コンフィグレーションガイド Vol.3
本装置でマルチキャストパケットを中継する場合には次の点に注意してください。
- <この項の構成>
- (1) プロトコル共通
- (2) PIM-SMの使用
- (3) PIM-DMの使用
(1) プロトコル共通
(a) 動作インタフェース
IPアドレスのマスク長が8ビットから30ビットのインタフェース上で動作します。
(b) マルチホーム
マルチホームを使用したインタフェースではIPv4マルチキャストは動作しません。
(c) プロトコルの混在
本装置は,PIM-SMとPIM-DMが混在するシステム構成をサポートしていません。そのため,ネットワーク内の全装置で同じマルチキャストプロトコル(PIM-SMまたはPIM-DM)を使用してください。ただし,PIM-SSMはPIM-SMの拡張機能なので,PIM-SMとPIM-SSMは混在できます。
(d) 二重化装置での系切替に伴う中継断
本装置では,二重化装置による運用で系切替する場合,マルチキャスト経路情報を再学習するまでマルチキャスト通信が停止するので注意してください。
(e) ルーティングプログラムの再起動に伴う中継断
運用コマンドrestart ipv4-multicastを実行してIPマルチキャストルーティングプログラムを再起動する場合は,マルチキャスト経路情報を再学習するまでマルチキャスト通信が停止するので注意してください。
(f) ハードウェア中継切り替え時のパケット追い越し
本装置ではハードウェアへのマルチキャスト中継エントリの設定が完了すると,それまでのソフトウェアによるマルチキャストパケットの中継処理がハードウェア中継へと切り替わります。このときに一部のパケットで追い越しが発生し,パケットの順序が入れ替わる場合があります。
(2) PIM-SMの使用
PIM-SMを使用する場合は次の点に注意してください。なお,この注意事項はPIM-SSMには該当しません。
(a) ソフトウェア中継処理時のパケットロス
本装置は,最初のマルチキャストパケット受信でマルチキャスト通信を行うためのマルチキャスト中継エントリをハードウェアに設定します。マルチキャスト中継エントリを作成するまでの間ソフトウェアでマルチキャストパケットを中継するため,マルチキャスト通信のトラフィック量によっては一時的にパケットをロスする場合があります。
(b) パス切り替え時の二重中継またはパケットロス
本装置は,ランデブーポイント経由でのマルチキャストパケット中継時およびランデブーポイント経由から最短パス経由への切り替え時,一時的に二重中継またはパケットロスが発生する場合があります。
ランデブーポイント経由のマルチキャストパケットの中継動作およびランデブーポイント経由から最短パス経由切り替え動作は「14.4.2 IPv4 PIM-SM」を参照してください。
(c) ループバックインタフェースに設定したアドレスへの到達可能性
本装置をランデブーポイントおよびブートストラップルータとして使用する場合,ループバックインタフェースに設定したIPv4アドレスがランデブーポイントとブートストラップルータのアドレスになります。このアドレスは,マルチキャスト通信する全装置でユニキャストでのルート認識および通信ができる必要があります。
(d) PIM-Registerメッセージのチェックサム
本装置以外の装置と混在するシステム構成では,PIM-Registerメッセージ(カプセル化パケット)のチェックサムの計算範囲の相違によってマルチキャスト通信ができない場合があります。ランデブーポイントでPIM-Registerメッセージがチェックサムエラーによってマルチキャスト中継しない場合は,本装置のコンフィグレーションコマンドのip pim register-checksumでPIMチェックサムを計算する範囲を変更してください。
(e) 静的ランデブーポイント
静的ランデブーポイントは,BSRを使用しないでランデブーポイントを指定する機能です。静的ランデブーポイントはコンフィグレーションによって設定します。
静的ランデブーポイントはBSRからPIM-Bootstrapメッセージによって広告されたランデブーポイント候補との共存もできます。共存時,静的ランデブーポイントはBSRからPIM-Bootstrapメッセージによって広告されたランデブーポイント候補よりも優先されます。
なお,ランデブーポイント候補のルータは,ランデブーポイントルータアドレスが自アドレスであることを認識することでランデブーポイントとして動作します。したがって,BSRを使用しないで静的ランデブーポイントを使ってネットワークを設計する場合は,ランデブーポイント候補のルータでも静的ランデブーポイントの設定が必要です。
また,静的ランデブーポイントを使用する場合,同一ネットワーク上の全ルータに対して同じ設定をする必要があります。
(f) 系切替時の通信無停止対応機能使用時の注意事項
系切替時の通信無停止対応機能使用時(コンフィグレーションコマンドip pim nonstop-forwardingの設定時)の注意事項を次に示します。
- エクストラネットを含むマルチキャスト中継エントリは,本機能の対象外となります。このため,エクストラネットを含むマルチキャストの中継は,系切替時に一時的に停止します。
(g) 系切替時の通信無停止対応機能でのIPv4マルチキャスト中継エントリ再学習時の注意事項
系切替時の通信無停止対応機能を使用している場合に,IPv4マルチキャスト中継エントリを再学習するときの注意事項を次に示します。なお,各注意事項はIPv4マルチキャスト中継エントリの再学習時間終了後(系切替から450秒後)に解消されます。
- 系切替するルータおよび近隣ルータでは,使用するユニキャストルーティングプロトコルのグレースフル・リスタートを有効にしてください。グレースフル・リスタートが無効な場合,系切替の直後はPIMメッセージが正しく送受信されないため,マルチキャスト中継が一時的に中断するおそれがあります。
- 系切替するルータの近隣ルータには,Generation IDオプションをサポート(RFC4601およびdraft-ietf-pim-sm-bsr-07に準拠)している装置を設置してください。近隣ルータがGeneration IDオプションをサポートしていない場合,系切替の直後にPIMメッセージが正しく送受信されないため,マルチキャスト中継が一時的に中断するおそれがあります。なお,Generation IDオプションについては「14.4.2 IPv4 PIM-SM」の「(3) 近隣検出」を参照してください。
また,系切替中は近隣ルータに本装置との近隣状態を維持させるため,PIM-Helloメッセージの送信間隔を30秒以上に設定してください(デフォルトは30秒です)。
- 再学習時間内は次の場合にパケットロスが発生することがあります。
- 中継対象のマルチキャスト中継エントリの下流インタフェースに,カプセル化インタフェースが含まれている場合
ランデブーポイント情報を学習するまで,カプセル化インタフェースへの中継が止まります。
- ランデブーポイント経由の中継が最短パス経由の中継に遷移している途中で系切替した場合
- ランデブーポイントを系切替したときに,新たなグループ参加要求を受信した場合
- 中継対象のマルチキャスト中継エントリの上流インタフェースが変更された場合
- 上流方向へPIM-Join/Pruneメッセージを送信する装置で系切替した場合,グレースフル・リスタート開始後にすべてのユニキャスト経路をルーティングテーブルに登録するまでの時間がPIM-Join/Pruneメッセージの送信間隔の1.5倍以上になると,パケットロスが発生することがあります。すべてのユニキャスト経路がルーティングテーブルに登録されて,該当する装置が上流方向へPIM-Join/Pruneメッセージを送信すると,このパケットロスは解消されます。パケットロスの発生を防ぐためには,該当する装置でPIM-Join/Pruneメッセージの送信間隔を130秒以上に設定してください。
なお,この設定をしても,BGPで多数の近隣装置と大量の経路情報を交換する場合やグレースフル・リスタートの設定によっては,パケットロスが発生するおそれがあります。その場合は,系切替対象装置に,送信元アドレスおよびランデブーポイント装置アドレスへのスタティック経路を最低の優先度で設定してから,系切替してください。
- 再学習時間内は次に示す意図しない中継が発生することがあります。
- マルチキャストデータの二重中継が発生した場合,その解消に時間が掛かることがあります。
マルチキャストルーティングプログラムがマルチキャスト経路情報を再学習すると,PIM-Assertメッセージによって二重中継が抑制されます。
- 中継対象のマルチキャスト中継エントリのインタフェースに障害が発生して,その後回復した場合,再学習に関係なく中継を再開することがあります。
- 中継対象のマルチキャスト中継エントリのインタフェースをコンフィグレーションで変更,またはプロトコル処理で削除した場合,中継が停止しないことがあります。
- ランデブーポイント経由の中継が最短パス経由の中継に遷移している途中では,両方の経路から二重にパケットが中継されることがあります。
- 再学習時間内はマルチキャスト中継エントリの無通信を監視しないで,再学習の終了時に未学習のマルチキャスト中継エントリを削除します。そのため,無通信時のエントリ保持時間を再学習時間より長く設定していても,再学習の終了時にマルチキャスト中継エントリは保持されません。
- BSRを系切替した場合,再学習時間内はPIM Candidate-RP-Advertisementメッセージの受信と同時にPIM Bootstrapメッセージを送信します。そのため,再学習時間内は通常の間隔(60秒)よりも短い間隔でPIM Bootstrapメッセージを送信します。
- ランデブーポイントで本機能を有効にした場合,PIM Candidate-RP-Advertisementメッセージのランデブーポイント保持期間を210秒に設定して広告します(通常は150秒)。
- コンフィグレーションによって,グローバルネットワークまたはVRFでIPv4マルチキャスト動作を開始,終了させるような変更をした場合,グローバルネットワークおよび全VRFのマルチキャスト中継エントリの再学習を終了します。これによって,未学習のマルチキャスト中継エントリは削除されます。IPv4マルチキャスト動作を開始,終了させる条件となるコンフィグレーションを次に示します。
- ip multicast-routing
- ip pim sparse-mode
- ip address
- 再学習時間内にPIM-SSMの動作範囲をコンフィグレーションで変更した場合,グローバルネットワークおよび全VRFのマルチキャスト中継エントリの再学習を終了します。これによって,未学習のマルチキャスト中継エントリは削除されます。
(3) PIM-DMの使用
PIM-DMを使用する場合は次の点に注意してください。
(a) ソフトウェア中継処理時のパケットロス
本装置は,最初のマルチキャストパケット受信でマルチキャスト通信を行うためのマルチキャスト中継エントリをハードウェアに設定します。マルチキャスト中継エントリを作成するまでの間ソフトウェアでマルチキャストパケットを中継するため,マルチキャスト通信のトラフィック量によっては一時的にパケットをロスする場合があります。
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