15.5.4 ネットワーク構成での注意事項
マルチキャストはサーバ(送信者)から各グループ(受信者)にデータを配信する1(送信者):N(受信者)の片方向通信に適します。IPv4マルチキャストの適応ネットワーク構成,注意事項を次に示します。
(1) PIM-SMおよびPIM-SSM共通
(a) 注意が必要な構成
次に示す構成でPIM-SMまたはPIM-SSMを使用する場合,注意が必要です。
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次の図に示す構成のようにホストと直接接続するルータが同一ネットワーク上に複数存在するインタフェースでは,必ずPIM-SMを動作させてください。
同一ネットワーク上に複数のルータが存在するインタフェースでPIM-SMを動作させないでIGMPだけを動作させた場合,マルチキャストデータが二重に中継されることがあります。
図15‒28 注意が必要な構成(複数ルータとホストの接続) -
次の図に示すように同一ネットワーク上にホストA,Bが存在し,それぞれのホストが周期的に同一のグループへ参加したり離脱したりする環境があります。この環境で,ホストAの離脱によるマルチキャスト中継の停止直後に,ホストBの参加でマルチキャスト中継を開始すると,制御パケットの伝搬遅延などによって,ホストBではマルチキャスト中継の開始直後にパケットロスが発生したように見えることがあります。
この場合,本装置または外部装置のIGMP snoopingと連携させて,本装置のLast Member Query Time値を該当するグループへの参加・離脱周期より大きくすることで回避できます。
図15‒29 注意が必要な構成(ルータと複数ホストの接続) -
次の図に示す構成のように本装置Cが本装置Aと本装置BにVRRPを設定した仮想インタフェースをゲートウェイとするスタティックルートを設定した環境では,PIMプロトコルが上流ルータを検出できず,マルチキャスト通信ができません。
この構成でマルチキャスト通信する場合は,本装置CにランデブーポイントアドレスとBSRアドレスとマルチキャストデータ送信元アドレスへのゲートウェイアドレスを本装置Aまたは本装置Bの実アドレスとするスタティックルートを設定する必要があります。
図15‒30 注意が必要な構成(VRRPを設定した場合) -
複数のマルチキャスト中継から複数のホストが中継を周期的に切り替える環境では,頻繁に切り替えると,マルチキャスト中継を切り替えたあと,選択したマルチキャスト中継が開始されるまでの遅延が大きくなることがあります。その場合は,コンフィグレーションコマンドip pim fast-mcache-settingを設定すると改善します。
(b) 複数VLANからの不要なマルチキャストパケットによる負荷
次に示す図のようなマルチキャストネットワークの構成で,一つのネットワークに二つのルータが存在する場合,DR(本装置B)がユーザに対して中継したマルチキャストパケットを,非DR(本装置A)が受信します。このとき,本装置Aはネガティブキャッシュエントリを作成して,この不要なパケットをハードウェア廃棄します。
複数VLAN設定時のマルチキャストパケット廃棄処理について次の図に示します。
コンフィグレーションコマンドip pim multiple-negative-cacheを設定していない場合,グローバルネットワークまたはVRFごとに一つのマルチキャスト通信(S,G)に対して一つだけネガティブキャッシュエントリを作成します。同一ポートに複数のVLANを設定すると,最初にパケットを受信したVLANを受信インタフェースとするネガティブキャッシュエントリだけを作成します。同じマルチキャストパケットが到着しても,ほかのVLANではネガティブキャッシュエントリを作成しません。
このため,ネガティブキャッシュエントリを作成したVLANではマルチキャストパケットを廃棄できますが,ほかのVLANでwrong-incoming-interfaceまたはcache-misshitとなるマルチキャストパケットを大量に受信すると,CPUで処理するパケットの輻輳が発生します。
コンフィグレーションコマンドip pim multiple-negative-cacheを設定すると,一つのマルチキャスト通信(S,G)に対して複数のネガティブキャッシュエントリを作成できます。複数のVLANでそれぞれネガティブキャッシュエントリを作成できるため,wrong-incoming-interfaceまたはcache-misshitとなるマルチキャストパケットを大量に受信しても,CPUで処理するパケットの輻輳を抑えられます。
(2) PIM-SM
(a) 推奨構成
PIM-SMによるネットワークの構成に当たっては,ツリー型ネットワーク構成および冗長経路が存在するネットワーク構成を推奨します。ただし,ランデブーポイントの配置には十分注意してください。PIM-SM推奨ネットワーク構成を次の図に示します。
(b) 注意が必要な構成
次に示す構成は注意が必要です。
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次の図に示すように送信者と直接接続するルータが同一ネットワーク上に2台以上存在する構成で,どれかをランデブーポイントとする場合は,ランデブーポイントがDRになるようにしてください。
ランデブーポイント以外をDRにした場合,DRからランデブーポイントに対しPIM-Registerメッセージを送信するため,本装置A,Bに負荷が掛かります。また,PIM-Registerメッセージ中のマルチキャストパケットを中継するときに,ランデブーポイントでパケットロスが発生するおそれがあります。なお,ランデブーポイントをDRにした場合は,PIM-Registerメッセージによるカプセル化は行いません。
図15‒33 注意が必要な構成(複数ルータと送信者の接続)
(c) 不適応な構成
次に示す構成でPIM-SMは使用しないでください。
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送信者とランデブーポイントの間に受信者が存在する構成
次に示す構成でサーバからグループ1のマルチキャスト通信を行う場合,ランデブーポイント経由の中継が効率よく行えません。
図15‒34 不適応な構成(送信者とランデブーポイントの間に受信者が存在する場合)
(3) PIM-SSM
(a) 注意が必要な構成
次に示す構成は注意が必要です。
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マルチキャストグループ(受信者)と同一回線上に複数のPIM-SSMルータが動作する構成
次に示す構成で,IGMPv2またはIGMPv3(EXCLUDEモード)でPIM-SSMを動作させる場合は,同一回線上の全ルータにコンフィグレーションコマンドip pim ssmおよびip igmp ssm-map staticを設定してください。
図15‒35 注意が必要な構成(複数ルータとホストの接続)
(4) PIM-SM VRFゲートウェイ【SL-L3A】
(a) 注意が必要な構成
次に示す構成は注意が必要です。
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PIM-SM VRFゲートウェイを使用したIPv4マルチキャストエクストラネットで,2台以上のVRF境界ルータで冗長構成を構築する場合,VRF境界ルータのどれかをランデブーポイントに設定してください。
VRF境界ルータ以外をランデブーポイントにした場合,最短パス配送ツリーが形成されるまでの間,IPv4マルチキャストパケットが境界ルータの数だけ多重中継になります。
図15‒36 注意が必要な構成(2台以上のVRF境界ルータで冗長構成を構築する場合)