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ハードウェアとソフトウェア、開発チーム同士の“ガチンコ勝負”から生まれた
100Gイーサネット対応のハイエンドコアスイッチ「AX8600Sシリーズ」

2014年8月、100G(ギガビット)イーサネットに対応した次世代型ハイエンドコアスイッチ「AX8600Sシリーズ」が、遂にリリースされた。これは、社会インフラ向けだけでなく、通信事業者の運用も考慮したフルルート対応の経路テーブルを装備し、爆発するトラフィック量や増え続けるIP接続に対応可能な、次世代型のイーサネットスイッチだ。そこで今回は、同機種の開発にかかわったエンジニアに、製品化に至るまでの苦労や思いなどを聞いた。

ハード設計部 技師 水野 亮太(ハードウェア)
ハード設計部 技師 熊谷 健(ハードウェア)
製品開発部 技師 猪野 賢介(ソフトウェア)

100G対応を実現するために乗り越えなくてはならないハードル

AX8600Sシリーズの特長について教えてください。

猪野

同機種はAX7800Sシリーズの後継機であり、高速・大容量のスイッチとして10 年ぶりにリニューアルを行いました。キャリア向けハイエンドルータAX8600Rのハードとソフトを継承し、通信事業者の運用を考慮した高い性能・機能を備えています。

熊谷

ハード面では100G対応に合わせて高速化、ソフト面ではフルルート対応で収容能力を高めています。また、運用管理の負担を軽減するための各種機能を備えているほか、インタフェースカードは1/4スロットサイズのカード単位で増設が可能な「マイクロラインカード構造」を新たに採用し、ハード面、ソフト面双方で運用の柔軟性を向上させました。高性能かつコストを抑えたAX8600Sシリーズは、通信事業者を中心に大規模システムを持つ企業や公共・大学などで幅広くお使いいただける製品です。

当初から100G対応を必須要件として掲げていたのですか?

水野

100G対応は必須要件だと考えていましたが、正直なところ「今100Gをやるの?」と不安に思うくらい高いハードルだと感じました。ただ、2009年には100Gイーサネットの規格も標準化され、お客様の声も今後は40Gを飛び越えて一気に100Gまで行くといったご意見が多かったため、先行してリリースした、AX8600R からサポートする前提で開発を推進しました。

ハード面で100G対応をクリアするための課題はどこにありましたか?

水野

100G対応のMACが新たに必要になるので、ASICで100Gに対応させるか、新たにチップを作るかで議論しました。100Gの回線に対応するためには、装置のボード内部で25Gという高速な伝送スピードを実現しなければなりません。そこで、100G対応チップの使い方や光モジュール(CFP)の仕様について調査、評価等を行い、試行錯誤しながらの開発となりました。

ASICの開発についてはいかがですか?

熊谷

当初はスロットあたり100G回線を1ポート収容する目標で設計を進めていましたが、お客様のニーズと経済性、および他社との競合性を考えると2ポート収容が必要であるとマーケティングから要望がきました。そのときは本当に焦りましたね(笑)。フォワーディングエンジンの回路規模を最適化してどうにか2ポート収容が可能なように対応しましたが、コストを抑えながらポート密度を倍増するという点が一番の苦労でした。

性能強化と信頼性向上のために新たに「プロトコルアクセラレータ(PA)」を搭載しています。

猪野

PAとは、これまでCPUで行っていたトラッキング処理などをオフロードすることで、CPUを本来の処理に専念させるための仕組みです。AX8600Sシリーズは従来の機種と比べても収容容量が桁違いに大きく、膨大な量のプロトコル制御パケットの送受信が要求されるため、それ以外の大容量パケットをオフロードで処理するPAを開発しました。

PAの開発で苦労したところはどこですか?

猪野

50msecという短い間隔で切り替え処理を行うところです。今まで秒オーダーだった切り替え時間をミリ秒オーダーまで縮めるとなると、ソフトだけの処理では難しいので、ハードの力を借りながらソフトも作り込みました。さらに、制御ボード上にネットワークプロセッサーを直接載せることも今回が初めての試みでした。制御ボードという共通部に搭載することで、インタフェースカードの種別に依存しないようオフロードする仕組みを作りました。

ハードチームとソフトチーム、両者で激論を重ねながら開発

プロジェクトチームの規模はどれくらいだったのですか?

熊谷

ピーク時でハードチームが10チーム、ソフトチームが30チームという、大きなプロジェクトになりました。各チームはハードなら筐体、ボード、ASICなど、機能ブロック別にさらに分かれています。

猪野

ソフトの方もASIC 制御ドライバや装置制御、ルーティングなどのプロトコル機能、運用管理系機能など多数のチームに分かれ、連携しながら開発を進めました。

2チーム体制で開発はスムーズに進んだのでしょうか?

猪野

「順調でした」と言いたいところですが、最初はお互いに言いたいことを言っていましたね(笑)。ソフト側のアイデアを実現するため「この機能を入れてほしい」とハード側にリクエストしても、「ハード的に無理がある」と断られてしまうこともありました。そこで食い下がる場合も、諦める場合もありましたが、議論を重ねるうちに現実的なところへ落とし込んでいくことができたと思います。ソフト側からは「こういう入れ方ならハードに入る?」、逆にハード側からは「こういうやり方ならソフトで制御できる?」などの提案も今まで以上に出てきたプロジェクトでしたね。

熊谷

最後にもめたのが、ASICの設計が完了する直前にリクエストが寄せられたときです。「インタフェースカード上にもう1本だけバスを引いて」とか、「スペックを上げて欲しい」といった要望が寄せられ、「え、今さら?」と困惑してしまいました(笑)。

猪野

こちらもできれば最初から要望を出したいのですが、ある程度検討が進んで性能予測等の精度が上がってからわかったことなどもあるので、そこは勘弁してください(笑)。振り返ると、AX8600Sシリーズは今まで以上にハードとソフトの連携が重要になったプロジェクトでしたね。

「マイクロラインカード構造」「前後吸排気」という難問

柔軟性といえば、AX8600Sでは「マイクロラインカード構造」を採用していますね。

水野

ハード観点では、設計に少なからず影響を与える構造なので、当初は私も反対でした。 パケットスイッチング機構(PSU)に最大4枚のインタフェースカードが載り、しかも構造的に「シングルフル(1/2スロットサイズ)」と「シングルハーフ(1/4スロットサイズ)」の2種類のサイズに対応させる必要があるからです。ただ、お客様にとってはメリットの大きい仕組みということで、思い切ってチャレンジしてみることにしました。

「前後吸排気」を新たに採用している点も特長です。

水野

これらは AX8600Sシリーズの大型モデルから小型モデルまで、全て共通した構造です。これまでの左右吸排気から前後吸排気に変えること自体チャレンジでしたが、マイクロラインカード構造を採用したことで、論理設計だけでなく構造設計が複雑になりました。特に冷却へのインパクトは大きかったですね。

どのような点が問題だったのでしょうか?

水野

風の流れを制御することが大変でした。インタフェースカードがスロットに入っているか/入っていないか、またインタフェースカードのサイズが「シングルフル」か「シングルハーフ」か、の組合せで風の流れは大きく変わります。穴が大きすぎると風の流れが偏るので、同じ風量になるように調整するのに苦労しました。

小型化する上で難しかったことはありましたか?

熊谷

新たに装置冷却用の風穴を空けることになるので、信号線を使える領域が減ってしまいます。そこで、信号線の本数を減らし、実装密度を高めました。また、筐体は内部を均等に冷やすのが基本ですが、前後吸排気の場合、障害物を避けながら後ろまで均等に冷やす設計が必要になります。そこで、部品の配置を風向に合わせて変更し、さらに高さを確保して排気する仕組みを作りました。

管理者の負担を軽減するため、運用性に徹底してこだわる

今回、新たに「運用支援スクリプト」を追加し、スクリプト言語(Python)の実行環境を搭載することで、オペレーションのカスタマイズや自動化が可能になりました。

猪野

これまでお客様は、ソフトの機能を少し追加するだけでもバージョンアップが必要でした。その負担を減らし、ちょっとしたカスタマイズはお客様自身で行えるようにしたいと考えたのが発想の原点です。今回は、Python(パイソン)という誰でも使えるスクリプト言語でプログラムを組めるようにしました。

イベント発生時の動作をユーザーが作成したスクリプトで実行させることができるわけですね。

猪野

そうです。今後は順次Pythonのライブラリを追加し、スクリプトからさまざまな制御が行えるようにして、通信事業者、企業や大学などのお客様に便利な機能を提供していくことを目指しています。

節電やCO2削減に貢献する「フレックス省電力」も採用しています。

熊谷

「フレックス省電力」とは、さまざまな条件に応じて多段階で省電力化する機能です。例えばチップを流れるパケットが通常の半分しかなければ性能も半分にして動作周波数を落としたり、不要な回路の電源を落としたりして節電するというものです。スマートフォンのチップではおなじみの機能ですが、コアスイッチのような大型の情報通信機器で、トラフィックの流量によって電気を落とすというのは珍しいと思います。これを反映させるシステムを将来に向けて作っていく予定です。

400Gbps/1Tbpsへの対応を見据え、ハイブリッドエンジンアーキテクチャで対応

AX8600Sシリーズの将来についてはどうお考えですか? 例えば、400G時代も視野に入れていますか?

水野

400G対応を実現するためには、装置の内部転送速度を現状からさらに高速化する必要があります。100G 対応したときと同様、かなりハードルが高いことは事実ですが、市場にも対応したチップが出回り始めているので、将来的には何とか実現させたいですね。FPGAで作るか、ASICで実現するか、価格、日程、技術動向やお客様のニーズなどを考慮しながら検討していきます。

将来の拡張についてどう考えていますか?

猪野

今回、SDNやOpenFlow との親和性を高めるため、ソフトのアーキテクチャをできるだけシンプルにしました。SDNやOpenFlow は今後コモディティ化していく可能性が高い技術ですが、アラクサラとしてはコモディティの要素とカスタマイズの要素の両方を重視してハイブリッドエンジンアーキテクチャを採用し、ASICで高速転送を実現しつつ、ネットワークプロセッサーで次世代サービスやプロトコルに対応できるようにしています。次世代のネットワークを見据えた際、ASIC とプロセッサーが両方とも変わるとソフト面でのサポートは大変ですが、AX8600Sシリーズでは、拡張性を見越して必要なところだけ対応すれば変更できるように作ってありますのでタイムリーな対応が可能です。ぜひ、ご期待ください。

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